突拍子もないお願いに、
私は驚きながらも窓を開ける。
その下には息を切らしたまま、
自転車にまたがっている悠貴の姿があった。
悠貴はその質問には答えずに、
自転車を降りて私を見上げる。
悠貴の言葉が私の胸の奥にある
頑なに閉ざされた心の扉を叩いてくる。
あふれてしまいそうな感情の名前を
私はすでに知っているような、
そうじゃないような……。
そんな奇妙な感覚に襲われた。
悠貴の言葉が全身に染み渡っていき、
ほのかに温もりを宿した気がした。
胸に込み上げる喜びに、鼻の奥がつんとした。
瞬きをすれば目の縁から涙がこぼれ落ちる。
それに気づいた悠貴は、その場で慌てだした。
拭っても拭っても涙があふれてしまうので、
私は両手で顔を覆う。
泣きながら相づちを打って、
私は顔から手を外すと悠貴を見つめる。
まっすぐな眼差しと熱い思いをくれた彼に、
私はやっぱり泣き止めそうになかった。
***
数日後のホームルームの時間。
配られた進路希望調査票を見つめていた私は、
ふいに手元が陰った気がして顔を上げる。
今まで私は進路希望調査票に、
なにを書くかで悩んだことなんてなかった。
あらかじめ用意されていた道──
【大学進学】の単語をそのまま書けばよかったから。
そう言って笑えば、
悠貴は私の頭をぽんぽんと撫でる。
そうやって、私の中に
価値あるものが積もっていけば……。
いつか自分自身に自信を持てる日が
くるのかもしれないと、そう思った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。