第4話

きみは誰かに必要とされてる
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2019/10/20 21:09
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
あなた、窓開けて
突拍子もないお願いに、
私は驚きながらも窓を開ける。

その下には息を切らしたまま、
自転車にまたがっている悠貴の姿があった。
あなた

えっ、どうしてここに……

悠貴はその質問には答えずに、
自転車を降りて私を見上げる。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
俺にはあなたが必要だ
あなた

……!

佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
あなたのことを否定するやつが
いたとしても、この先になにが
あったとしても、俺があなたを嫌いに
なることなんてない
悠貴の言葉が私の胸の奥にある
頑なに閉ざされた心の扉を叩いてくる。

あふれてしまいそうな感情の名前を
私はすでに知っているような、
そうじゃないような……。

そんな奇妙な感覚に襲われた。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
誰かに必要とされてる。
価値なんて、それだけで十分だろ
悠貴の言葉が全身に染み渡っていき、
ほのかに温もりを宿した気がした。
あなた

悠貴ってすごいね

佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
すごい?
あなた

悠貴の、言葉が……っ

胸に込み上げる喜びに、鼻の奥がつんとした。

瞬きをすれば目の縁から涙がこぼれ落ちる。

それに気づいた悠貴は、その場で慌てだした。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
な、泣いてるのか!?
あなた

ごめんっ、泣くつもりじゃ……

拭っても拭っても涙があふれてしまうので、
私は両手で顔を覆う。
あなた

本当に悠貴の言うとおりだなって
思ったら、 ただただうれしくて

佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
あなた……
あなた

私、きっと……。ずっと、誰かに必要だって
言われたかったんだと思う

佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
なら、何度でも言うよ。
俺にはあなたが必要だ
あなた

ううっ、ふ……うん

泣きながら相づちを打って、
私は顔から手を外すと悠貴を見つめる。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
大事なんだ。
こうしてあなたに元気がないって
わかったら、駆けつけたくなるほどに
あなた

ありが……とう

まっすぐな眼差しと熱い思いをくれた彼に、
私はやっぱり泣き止めそうになかった。

***

数日後のホームルームの時間。

配られた進路希望調査票を見つめていた私は、
ふいに手元が陰った気がして顔を上げる。
神谷 鉱
神谷 鉱
あなたちゃん、そんなに凝視してたら
進路希望調査票に穴が空いちゃうんじゃない?
あなた

あ、神谷くん。……なんか、
このまま親の言うとおりにして、
大学に進んでいいのかなって

佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
……あなたが望む道に進まないと、
後悔するんじゃないか?
あなた

そうだよね……。
でも、今まで自分で決められた
ことってほとんどなかったから、
ぱっと思いつかないな

神谷 鉱
神谷 鉱
なるほど、あなたちゃんから
考える力を奪ったのは、親の罪だね
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
あなた、夢なんてぱっと
思いつかないのが普通なんだよ。
たくさん悩んで決めた道だから、
進みたいと思えるんだろうし
今まで私は進路希望調査票に、
なにを書くかで悩んだことなんてなかった。

あらかじめ用意されていた道──
【大学進学】の単語をそのまま書けばよかったから。
あなた

未来を決めるって、難しいことなんだね。
だけど……わくわくする

そう言って笑えば、
悠貴は私の頭をぽんぽんと撫でる。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
ひとつひとつ、あなたにとって
価値あるものを見つけていけるといいな
あなた

うん

そうやって、私の中に
価値あるものが積もっていけば……。

いつか自分自身に自信を持てる日が
くるのかもしれないと、そう思った。

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