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第20話

前よりももっと、きみが好きだ
3,831
2020/02/09 21:00
病院を退院する頃には林間学校は
終わっていて、私は学校を数日休んだ。

そして、今日が復帰の日──。
神谷 鉱
神谷 鉱
あなたちゃん、元気になってよかったね
朝、学校に来ると神谷くんが片手を上げる。
あなた

うん、心配かけてごめんね。
おかげさまで、全身打撲で済みました

佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
あなた、お帰り
悠貴は私の頭をぽんっと撫でて、
いつもの優しい笑顔を向けてくれる。

(うん、悠貴の顔を見ると帰ってきたって
実感するな)

ほっとしていると、私は大事なことを思い出す。

(うっかり、忘れるところだった)
あなた

悠貴、放課後に屋上に来てもらえる……
かな?

佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
え? いいけど……
あなた

じゃあ、約束ね

笑って自分の席に着くと、
悠貴はずっと不思議そうに私を見ていた。

どうして、私が悠貴を屋上に呼んだのか。

それは私が山の斜面に落ちたとき、
失っていたすべての記憶を取り戻したからだ。

(あの日をもう一度、やり直そう。
それで今度こそ、私から悠貴に踏み出そう)



そんな気持ちで、迎えた放課後──。

私はあの日と同じ、
頭上に青空が広がった屋上にいた。
あなた

来てくれてありがとう。
実は……どうしても伝えたいことがあって

佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
改まってどうしたんだ? 
まさか……別れ話じゃ……
青ざめる悠貴に、私は慌てて首を横に振る。
あなた

違うよっ、あの……ね

(同じ気持ちだってわかってるけど、
告白をするって緊張するな……)

(でも、何度も告白してくれた悠貴は、
もっと怖かったはずだよね)

私は深呼吸をすると、
悠貴をまっすぐに見つめる。
あなた

私、きっと面白くない人間だと思うけど……


あの日の言葉を織り交ぜながら、
前とは逆で自分から想いを届ける。
あなた

たくさんいる人の中で
私を選んでくれたこと、
ずっと変わらず好きでいてくれたこと……

佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
その言葉……まさか、記憶が戻って……?
その質問に静かに頷けば、
悠貴の右目から涙がひとしずくこぼれ落ちる。

(ずっと忘れていてごめんね。
もう絶対に、この記憶も想いも
きみの手も放さないから──)
あなた

そのまっすぐな想いを注いでくれる
あなたが好きです。もし同じ気持ちなら、
この手を取ってください!

頭を下げた私は右手を差し出す。

すると、悠貴は震える息を長く吐き出して、
それから一歩一歩近づいてくる。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
……っ、俺はあなたが思い出せないまま
でも、それでも……またいちから、
あなたに好きになってもらえるように
頑張ればいいって、そう思ってた
あなた

うん、また私に会いに来てくれて
ありがとう……っ

どんな気持ちで、屋上にいた私に会いに
来てくれたのかを思うと涙が止まらなくなった。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
だけど、
こうして思い出してもらえて……。
俺にとってあなたと積み重ねてきた時間は
かけがえのないものだったんだって、
再認識した
あなた

私も……悠貴との宝物みたいな思い出を
取り戻せて心からよかったって思ってる。
でもね、記憶があってもなくても……
私は何度でも悠貴に恋をしていたと思う

(私が二度、あなたを好きになったように)

悠貴は私の目の前で足を止める。

そして、差し出していた私の手に、
そっと手を重ねてくる。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
前よりももっと、
俺はあなたと繋がれてる気がする。
前よりももっと、
あなたが好きだ。絶対、幸せにする
繋いだ手を引っ張られて、私は一歩前に出る。

その拍子に顎を軽く持ち上げられて、
重なった手と同じように唇が触れ合う。

大事なものを落っことしてしまった
私だったけれど……。

もう一度拾い集めてみたら、
【価値のない私に生きる意味なんてないんだ】
なんて……もう二度と言えなくなった。

(だって、私はこんなにもあなたに
必要とされているのだから──)
                  (END)

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