進路希望調査票が配られた日。
家に帰ってきた私は両親に
自分が望む道を進みたい気持ちを
伝えたのだけれど……。
(予想してたけど、
面と向かって否定されるときついな……)
怯みそうになったそのとき、
悠貴の声が頭に蘇る。
『……あなたが望む道に進まないと、
後悔するんじゃないか?』
(そうだ、きっと後悔する)
私は顔を上げて、両親から目をそらさずに告げる。
そう言いかけたとき、ふと疑問に思う。
(ずっとって、いつから?)
自分に問いかけると、激しい頭痛に襲われた。
慌てて受話器をとるお父さんの姿が
ぼやけて見える。
思考に霧がかかる中、お兄ちゃんが
抱きかかえてくれるのがわかったが、
私はぷちんっと糸が切れるように意識を手放した。
***
──私は夢を見ていた。
夕暮れの自分の部屋で、
机に向かっている私は涙でぼやけた視界の中、
【価値のない私に生きる意味なんてないんだ】
と書置きを残している。
そう、この頃の私は自分以外の他人が
すごく完璧な人間に見えて、
人と距離を置いて生活していた。
(だから友人も恋人も、
私と付き合いにくそうにしていたっけ)
人と距離をとっている間に
本当にひとりぼっちになった私は、
すべてを終わらせようとして自室の窓から
飛び降りた。
そっか、この夢は私の記憶の一部だ。
飛び降りることに恐怖はなかった。
解放されることのほうがうれしかった。
なんて、そう言えたならよかったのだけれど、
私は初めからわかっていたのだと思う。
うちの二階から飛び降りたところで、
高さ的に死ぬことはないってこと。
私はただ、気を引きたかっただけ
なのかもしれない。
誰かに私を見てほしかったんだ……。
***
はっと目が覚めると、
私は見知らぬ部屋のベッドにいた。
鼻を突くような消毒液の匂いと
白で統一された壁紙や天井。
すぐにここが病院であることを理解する。
泣き出しそうな顔で私を見つめるのは、
悠貴だった。
強い力で手を握られて、
悠貴の涙が頬に雨のように降ってくる。
安心させるように頷けば、
悠貴は私の手を自分の頬にくっつけて
ようやく微笑んでくれた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。