第5話

きみが傷ついたら、心配する人がいるんだ
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2019/10/27 21:09
進路希望調査票が配られた日。

家に帰ってきた私は両親に
自分が望む道を進みたい気持ちを
伝えたのだけれど……。
お母さん
お母さん
なに言ってるの? 
あなたは劣等生なんだから、
ひとりじゃまともな道を歩けないわ。
私たちの言うとおりにしなさい
お父さん
お父さん
そうだぞ。
お父さんたちは正しい道を歩いてる。
正しい道を歩いた大人の言うとおりに
すれば、間違いないんだ
(予想してたけど、
面と向かって否定されるときついな……)

怯みそうになったそのとき、
悠貴の声が頭に蘇る。


『……あなたが望む道に進まないと、
後悔するんじゃないか?』


(そうだ、きっと後悔する)

私は顔を上げて、両親から目をそらさずに告げる。
あなた

私の歩く道が正しいか正しくないか。
それを決めるのは、お父さんでも
お母さんでもない! 私自身だよ!

お兄ちゃん
お兄ちゃん
お前、急にどうしたんだ
あなた

急にじゃない、ずっとそう思ってて──

そう言いかけたとき、ふと疑問に思う。

(ずっとって、いつから?)

自分に問いかけると、激しい頭痛に襲われた。
あなた

いっ、いたた……頭が、割れそうっ

お母さん
お母さん
あなた!? 
あなた、救急車を呼んで!
お父さん
お父さん
あ、ああ

慌てて受話器をとるお父さんの姿が
ぼやけて見える。
お兄ちゃん
お兄ちゃん
あなた、あなた? しっかりしろ!
思考に霧がかかる中、お兄ちゃんが
抱きかかえてくれるのがわかったが、
私はぷちんっと糸が切れるように意識を手放した。

***

──私は夢を見ていた。

夕暮れの自分の部屋で、
机に向かっている私は涙でぼやけた視界の中、

【価値のない私に生きる意味なんてないんだ】
と書置きを残している。
あなた

誰も私自身を必要としてない

そう、この頃の私は自分以外の他人が
すごく完璧な人間に見えて、
人と距離を置いて生活していた。

(だから友人も恋人も、
私と付き合いにくそうにしていたっけ)

人と距離をとっている間に
本当にひとりぼっちになった私は、
すべてを終わらせようとして自室の窓から
飛び降りた。

そっか、この夢は私の記憶の一部だ。

飛び降りることに恐怖はなかった。

解放されることのほうがうれしかった。

なんて、そう言えたならよかったのだけれど、
私は初めからわかっていたのだと思う。

うちの二階から飛び降りたところで、
高さ的に死ぬことはないってこと。

私はただ、気を引きたかっただけ
なのかもしれない。

誰かに私を見てほしかったんだ……。


***

はっと目が覚めると、
私は見知らぬ部屋のベッドにいた。

鼻を突くような消毒液の匂いと
白で統一された壁紙や天井。

すぐにここが病院であることを理解する。
あなた

なんで、私……

佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
あなた!?
泣き出しそうな顔で私を見つめるのは、
悠貴だった。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
ほんとに、目が覚めてよかった……っ、
俺はまた失うのかと……
強い力で手を握られて、
悠貴の涙が頬に雨のように降ってくる。
あなた

心配かけてごめんなさい

佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
あなたが傷ついたら、
心配する人がいるんだ。
だからつらいとき、苦しいとき、
限界が来る前に俺に全部ぶちまけて
あなた

うん、わかった。約束する

安心させるように頷けば、
悠貴は私の手を自分の頬にくっつけて
ようやく微笑んでくれた。

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