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第1話

忘れないで、俺にはきみが必要だってこと
13,518
2019/09/29 21:09
──11月、冬。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
海野うみの あなたさんだよね?
高校の昼休み。

屋上のフェンス越しに校庭で遊んでいる
生徒たちを眺めていると、背中から声をかけられた。
あなた

え……

振り返ると、黒髪に透き通るような瞳をした
爽やか男子が立っている。

(この人って確か、佐久間さくまくんだよね?)

1年生のときから同じクラスだった気がするけれど、
あまり話したことはない……と思う。

確信がもてないのには、理由がある。
私にはいくつか抜け落ちた記憶があるからだ。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
佐久間悠貴ゆうきだよ。
きみとは、その……
俺が言うのもなんだけど、
すっごく仲良しだった
近くまで歩いてきた佐久間くんは、
私の目の前で足を止める。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
覚えてない……よね?
あなた

ごめんなさい。
私、ここ一年の記憶が
ところどころないみたいで

病院の先生によると、私は心的ショックによる
一時的な記憶喪失になってしまったらしい。

あとから両親に聞いた話だけど、
私は記憶を失った日に──。

【価値のない私に生きる意味なんてないんだ】

そう書いた紙を残して、
自宅の二階の窓から飛び降りたのだとか。

幸い、右足の骨折程度で済んだけれど、
怪我が治ってからも2学年に上がってからの
記憶は戻っていない。

原因はたぶん、というより確実に両親だと思う。

両親はよく、私にこう言った。

「お兄ちゃんと比べて出来が悪い」

「私たちの顔に泥を塗るなんて、親不孝者」

「ダメな子ね」


それも親戚やご近所さんの前でまで、
私を「ダメな子」として扱う。

それが嫌で嫌で仕方なかった。

「ダメな子」レッテルを貼られているうちに、
だんだん自分には価値がないような、
周りの子より劣った人間であるような、
そんな気持ちになった。

(私はきっと、苦しかったんだ。
だから、すべてを終わらせるつもりで飛び降りた)
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
あなた?
あなた

──!

名前を呼ばれて、はっと我に返る。

目を瞬かせながら佐久間くんを見ると、
心配そうな眼差しが向けられる。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
大丈夫? 顔色が悪いみたいだ
すっと伸びてきた手が私の頬に触れる。

それを自然と受け入れている自分に驚きつつも、
私はじっと佐久間くんの体温を感じていた。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
捜しに来て正解だったな
あなた

……どうして、私を?
なんで、私がここにいるって
わかったの?

佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
質問ばっかだな、あなたは
にかっと笑う佐久間くんの笑顔は、
頭上で輝く太陽のように眩しい。

(あれ……この笑顔、知ってるような気がする。
それに呼び捨てにされても、全然違和感がない)

それから考えると、
彼が私と仲良しだったという説は
あながち間違いじゃないかもしれない。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
空が近い場所が好きなんだって、
あなたが前に話してたんだよ
あなた

ああ、それはきっと……

死に近い場所だからかもしれない。
記憶を失う前の私は、死を望んでいたから。

不自然に言葉を切ったからか、
佐久間くんが顔を覗き込んでくる。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
……あの、さ。
なにもかもが嫌になって、
全部捨てちゃいたくなってもさ。
俺だけはそばに置いて
あなた

え?

(それって……どういう意味?)
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
今度こそ置いてきぼりにされない
ように、俺もあなたに踏み込むから。
だから忘れないで。
俺にはあなたが必要だってこと
佐久間くんはまるで離さないと言わんばかりに、
私の手を強く握る。

彼がなにを伝えたいのかはわからなかったけれど、
私はその必死な表情から目を離せなかった。

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