第19話

ふたりでいるために、この手を離すな
3,224
2020/02/02 21:00
長い夢を見ていた気がする。

真っ暗闇の中をふよふよと漂っていると、
どこからか声が聞こえてくる。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
あなた、あなた!
泣きそうな声が必死に私に呼びかけてくる。

それに引き寄せられるように、
私の意識は浮上していった。

***

目を開けると、視界いっぱいに広がる悠貴の顔。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
──あなた!
私の名前を呼んだ彼の頬をいくつも
涙が伝っていく。

視線がかち合うと、
彼は横になっている私を抱きしめた。
あなた

悠、貴……
そんな、悲しそうな顔……しない、で

私は重く怠い腕を持ち上げて、
悠貴の背に手を回す。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
泣くに決まってんだろ!
あなた

……っ

佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
あなた、急な山の斜面から落ちたんだよ。
それで、発見されたときには
意識がなくて……っ
言葉を詰まらせながら、
悠貴はなにが起きたのかを話してくれる。

私は林間学校の肝試し中に山の斜面から落ち、
近くの病院に運ばれたらしい。

ここはその病院の個室。

命に別状はないものの、
私はまる1日眠っていたのだとか。

先生はというと、今私の両親に電話をしに
行ってくれていて席を外しているのだと
教えてくれた。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
俺は特別に先生から許可もらって、
ここにいさせてもらってた。
だけど、全然目が覚めなくて……っ
あなた

心配かけてごめんね。
でも、もう大丈……

佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
全然、大丈夫じゃないだろ!
怒鳴り声が病室内に響く。

悠貴は眉根を寄せて、
見たこともないほど怒っていた。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
あのとき、
どうして俺の手を離したんだよ
(あのとき……悠貴はきっと、
肝試しの日のことを言ってるんだ)
あなた

あのままじゃ、
悠貴も落ちちゃうと思ったの

佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
それでもっ、
死んでたらどうするんだよ!? 
なにがなんでも、
俺と生きる道を選べよ!
あなた

あ……

(私はまた、間違った?)

【価値のない私に生きる意味なんてないんだ】

いつかの遺書みたいに、
私はまた誰かが悲しむことを考えずに
勝手に死を選んだのかもしれない。
あなた

ごめんなさい。
ごめんなさい、悠貴……っ

どれだけ悠貴を傷つけたのかに気づいて、
私は泣きながらその胸にしがみつく。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
俺とあなたのどちらか、じゃなくて……。
ふたりでいたいって、思ってくれ。
そのために、この手を離すな──
悠貴は私の手を強く握りしめる。
あなた

うんっ、約束する。
もう二度と、この手を離したりしない
って。 悠貴のそばにいるって

私は悠貴の心に応えるように、
指を絡めるように固く繋ぐ。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
あなたはもう、俺の命も同然なんだよ。
あなたがいなくなったら、
俺の心は死ぬんだ。わかったか?
あなた

うん、今ならわかる。
悠貴が死んだら、
私の心も死んでしまうから……

佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
じゃあ、約束をしよう。
どんなときも一緒に生きる道を探すって
約束を。絶対に忘れないように──
そう言って、悠貴は繋いだ手を引き寄せると
私にキスをしたのだった。

プリ小説オーディオドラマ