第12話

海常においでよ
1,218
2022/08/13 13:22
あなたside




あなた:「…久しぶり。黄瀬くん・ ・ ・ ・。」




素っ気ない挨拶に黄瀬くんは転瞬、固まった。
その様子を見てテツくんも面食らう。



黄瀬:「あなたっち、なんでそんなよそよそしいんっスか?オレ、あなたっちがここに居るなんて知らなかったんスけど。まさか、キセキの世代全員に言ってないとかないっスよね?」



あなた:「………。」



何も言い返せないまま黙り込んでいると、日向先輩が黄瀬くんに尋ねる。


日向:「なんでここに?」



黄瀬:「いやー次の相手誠凛って聞いて、黒子っちが入ったの思い出したんで、挨拶に来たんスよ。」



いつもの笑顔でテツくんの側に寄る。




…テツくんは心底嫌そうな顔してるけど。



黄瀬:「中学の時、一番仲良かったしね!」



黒子:「フツーでしたけど。」



黄瀬:「ヒドッ!!!」



どこから持ってきたのか、先輩たちが横でキセキの世代の月バス特集を広げて朗読を始める。



「中学2年からバスケを始めるも、恵まれた体格とセンスで瞬く間に強豪・帝光でレギュラー入り。他の4人と比べると経験値は浅さはあるが、急成長を続けるオールラウンダー。」



彼の凄みは急成長を遂げ続けている、ということ。
物差しなんかじゃ測りきれない伸びしろを持っている。



「中2から?!」



黄瀬:「いやあの…大げさなんスよその記事、ホント」



黄瀬くんは少し困った様子で笑う。



黄瀬:「「キセキの世代」なんて呼ばれるのは嬉しいけど、つまりその中でオレは一番下っぱってだけスわ〜」




嘘つき。嬉しくなんかないくせに。


ハハハ…と軽く笑う彼にいつかみたいに胸が痛む。




黄瀬:「だからオレと黒子っちはよくイビられたよ」



ねーと共感を得ようとする黄瀬くんに、テツくんは容赦ない。


黒子:「ボクは別になかったです。」


黄瀬:「あれ?!」





相変わらず調子いいなぁ…。


テツくんにベタベタな黄瀬くんと鬱陶しそうなテツくん。なんだかテツくんからSOSの視線が送られている気がするけど、、スルーで。



バチィ



黄瀬:「っと?!」



背後から疾風のように投げつけられたボールが黄瀬くんの手のひらに弾き、受け止められる。




黄瀬:「った〜、、ちょ…何?」



びっくりして後ろを振り返るとやる気満々な火神くんが黄瀬くんに勝負を挑み出した。



火神:「せっかくの再会中ワリーな。けどせっかく来て挨拶だけもねーだろ。ちょっと相手してくれよイケメン君。」



日向:「火神?!」


リコ:「火神君!!」



あなた:「火神くん、やめときなよ…!」



何を言い出すの、彼は!!見たところ、勝てる要素はひとつもない。



黄瀬:「え〜そんな急に言われても…あーでもキミさっき…」



止めに入ろうと火神くんに寄ると、意外にも黄瀬くんはあっさりとしていて。



黄瀬:「よしやろっか!いいもん見せてくれた・・・・・・お礼。」



まさかの事態にテツくんと目を見合わせる。


…いや、それでも状況は変わらない。彼らが好戦的なのは既知済みではある。けど、


黒子:「あなたさん、」


あなた:「マズい、止めた方がいいんだけど…でも火神くんも黄瀬くんもスイッチ入っちゃってる…」




火神くんも黄瀬くんも、私の意見には耳も傾けず1on1を始める。


私たちはただ、ボールをつく2人を見守る。





ダムッ…キュッ




ボールを持った黄瀬くんは瞬く間にゴール下に走り込む。それに食らいついて火神くんも走り込む。



…ああ、この感じ。この構成。さっき見たばっかり。



フルスピードからの切り返し、そのままシュート。




あなた:「彼は見たプレイを、一瞬で自分のものにする。」


リコ:「……なっ!?」




これは模倣とかそんな甘いレベルじゃない。真似をするのではなく、彼は完全に自分のものにしている。



白熱の試合に体育館内がドワッと沸く。


外のギャラリーは…、黄瀬くんに夢中だ。




火神:「(ウソだろ?!)」



「うおっ火神もスゲェ!!反応した?!」




凄まじい力の差を見せつけられながらも、火神くんも負けじとボールをカットしにかかる。



されど黄瀬くんの勢いは止まらない。




ドキャッ



火神:「がっ…!?」




止めにかかったパワーのある火神くんさえも、いとも簡単に押し返した。


押し返された火神くんは後ろに手をついた。



「これが「キセキの世代」…黒子と虹村さん、オマエらの友達スゴすぎねぇ!?」




もはやそんなレベルじゃない。凄いとか簡単に表せるようなプレイではない…。



黒子:「…あんな人知りません」


「へ?」



黒子:「正直さっきまでボクも甘いことを考えていました。でも…数ヶ月会ってないだけなのに…彼は…」




予想を遥かに超える速さで「キセキの世代」の才能センスは進化してる。



テツくんの見たことの無い表情を目にして、選手として共にした事のある彼の驚き具合が、事の異常性を物語っている。



そんな中、黄瀬くんは腑に落ちない様子で問いかける。



黄瀬:「ん〜〜…これは…ちょっとな〜」


勝利したのに喜びを感じられない黄瀬くんに、周りはざわめく。


黄瀬:「こんな拍子抜けじゃやっぱ…挨拶だけじゃ帰れないスわ。」












黄瀬:「やっぱあなたっちと黒子っちください。」













あなた:「____え」



黄瀬:「海常ウチおいでよ。また一緒にバスケやろう。」




何…言ってるの?私とテツくんが海常…?



「なっ……!?」



黄瀬:「マジな話、黒子っちとあなたっちのことは尊敬してるんスよ!こんなとこじゃ宝の持ち腐れだって!」




乗り気な彼は、私たちを説得し強豪に呼びつけようと勧誘する。


黄瀬:「ね、どうスか」



______舐めれたもんだねぇ。



黒子:「そんな風に言ってもらえるのは光栄です。」





黒子:「丁重にお断りさせて頂きます」
あなた:「丁重にお断りいたします」



2人で綺麗にお辞儀して辞退を告げる。



黄瀬:「文脈おかしくねえ!?」



悲しむ彼はころっと顔色を変えて、物議を醸す。



黄瀬:「そもそもらしくねっスよ!勝つことが全てだったじゃん!なんでもっと強いトコ行かないの?!」




ほんとに変わらない。その考え方は私に合わない。勝つことだけが大事なんじゃないの。
それを教えて確信に変えてくれたのは誠凛だから。



黄瀬:「それに、あなたっちだって!ここじゃあなたっちの相手はいないでしょ!バスケの相手!」



リコ:「…バスケの相手?ってどういう事?」



ある事なんでも口にしないで欲しいな。
彼に個人のプライバシーとかないの?



…もうこの際、言うべきなのか。




私はハァ…とため息をついて、使われたボールを掬いあげる。



あなた:「マネージャー、なんですけど。一応、選手の練習相手でデータ収集してたんです。」



途端、辺りは静まり返る。



「「「「「ええぇぇぇっ?!」」」」」



リコ:「どーゆー事?!」




日向:「(腑に落ちなかったのはこれか…。道理で事が噛み合わないわけだ。)」




黄瀬:「…言って、なかったんスか?」




てっきり言ってるもんだと…と今更申し訳無さそうな黄瀬くん。



あなた:「言ってようが言ってまいが、私とテツくんはあの時・・・から考えが変わったの。何より火神くんと約束したの。」




私は黄瀬くんの前に力強く立つ。身長差は広がり、見上げないと顔も見えないまでになっても、否定されようとも何言われようとも、何度でも言ってやる。



あなた:「キミ達を…「キセキの世代」を倒すと」



黄瀬くんは眉をぴくりと上げる。



黄瀬:「…やっぱらしくねースよ。そんな冗談言うなんて。」





飲み込めない様子でいる黄瀬くんに、立ち上がった火神くんが笑みを浮かべながら近づく。



火神:「……ハハッ、ったくなんだよ。オレのセリフとんな虹村。」



この様子だと、圧倒的な差に腰引けてるようでもないね。どうせ、キセキの世代に期待してるだけでしょう。



あなた:「冗談苦手なのは変わってないよ。本気だよ。」




怖気ずつのはもう辞めだ。

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