第10話

神出鬼没
1,239
2022/07/31 13:00
月曜日、朝8:40。






現在地、学校最上階 屋上。






リコ:「フッフッフ、待っていたぞ!」





さすが朝の屋上。風が吹き、雲ひとつない晴天だ。



相田先輩は仁王立ちで私たちを待ち構えている。







火神:「……アホなのか?」



黒子:「決闘?」



あなた:「扉に立ち入り禁止って見えたの私だけ?」





私たちの話を聞いてついでに出しに来た他のメンバーを加え、ぞろぞろと並びでる。





…いや、それよりも。





並び出た先の景色には、校庭に全校生徒が一列に綺麗な線を作っている。





火神:「つーか忘れてたけど…月曜ってあと5分で朝礼じゃねーか!」





ここ、めっちゃ響くな…。





火神:「とっとと受け取れよ。」





遅れんだろ、と相田先輩に本入部届けを受け取るよう急かす火神くん。





リコ:「その前に1つ言っとくことがあるわ。去年、主将キャプテンにカントクを頼まれた時に約束したの。」




視線を落とした相田先輩は再度上げ直す。




そこに微塵も曇りは無くて。





リコ:「全国目指してガチでバスケをやること!もしその覚悟がなければ同好会もあるからそっちへどうぞ!!」






その立ち姿はとてもじゃないけど、たった17歳の女の子とは思いきれないほど力強く感じた。




この人が自分のひとつ上とは信じ難い。





それと合わせて、この人の存在が誠凛バスケ部を決勝まで導いたんだと、これがこの人がカントクである所以なんだと、どこか遠く感じてしまった。





けれど、誠凛バスケ部は生半可な気持ちでバスケをしている訳じゃないってことは重々と分かった。




火神:「…は?そんなん…」





リコ:「アンタらが強いのは知ってるわ。けどそれより大事なことを確認したいの。」







___強いことより大切なこと。





リコ:「どんだけ練習を真面目にやっても、「いつか」だの「できれば」だのじゃいつまでも弱小だからね。具体的かつ高い目標と、それを必ず達成しようとする意思が欲しいの。」





要は口先だけじゃなく、有言実行しろということ。




リコ:「んで今!ここから!!学年とクラス!名前!今年の目標を宣言してもらいます!ちなみに私含め今いる2年も去年やっちゃった♡」




大きく手を広げる相田先輩の指す先。




ついでにね、と悪魔のはにかみは告げる。




リコ:「さらにできなかった時はここから・・・・今度は全裸で好きなコに告ってもらいます!」







「「「え"え〜〜〜!!?」」」







……もしそうなった時は地獄絵図。






リコ:「あ、虹村さんは水着着てやるから安心してね♡」





………相田先輩、そういう問題じゃないと思うのですが。





「それ、男得じゃん。」





リコ:「誰だ今言ったやつっ?!そこ直れぇ!!」





ペナルティのレベルがえげつない件について。




テツくんと困惑した目で見あう。
当然ながら、他のメンバーも驚き慌てふためる。





リコ:「さっきも言ったけど、具体的で相当の高さのハードルでね!「一回戦突破」とか「がんばる」とかはやり直し!」




私たちの横で火神くんは平然と「んなもん負けなきゃいい話じゃねーか」と特に慌てる様子もない。





火神:「ヨユーじゃねーか。テストにもなんねー」



そう言った火神くんはタンッと柵に飛び乗る。




火神:「1-B、5番!火神大我!!「キセキの世代」を倒して日本一になる!」




言い切った後、またカタンッと後ろに飛び降りて、私の方へ一歩二歩と近づいた。




火神:「オメーも言うだろ。自分の決意表明。行ってこいよ。」





何だか背中を押された気がして、決まってるでしょとつい、意地を張るように言った。





あなた:「1-B、11番!虹村あなた!!主役を輝かせる神出鬼没のマネージャーになる!」





「びっくりしたー」



「ナニアレ?」



「よくやるー」





メガネの先輩:「(うっわやっぱ今年もやった…)」





下ではざわめいており、バスケ部の先輩たちが見える。柵から離れた私に火神くんが訝しげな顔をして尋ねた。





火神:「おい、シンシュツキボツってなんだよ。」





………、帰国子女って四字熟語が苦手なんでしょうか。



あなた:「………………よく高校に入れたね。」






火神:「てめっ、黒子と一緒でバカにしてんなっ?!」





あなた:「一般入試受けたんだよね?」









リコ:「次はー?早くしないと先生来ちゃうよ」





騒がしい火神くんをフル無視して、グルリと見回し、テツくんを探した。





相田先輩の隣に静かに立ち、手にはガーピーとけたたましい音を上げる拡声器を持っている。





黒子:「すいません。ボク声張るの苦手なんで拡声器コレ使ってもいいですか?」





リコ:「…いいケド、」





テツくんがスウゥと息を吸い込んだ時、






バンッ





「コラー!!またバスケ部!!」





リコ:「あら今年は早い!?」







勢いよく開いた扉からご立腹の先生方が入り込んで来て、みっちり説教された。





……張り紙にはご注意を。
























火神:「ちょっと大声出したくらいであんなに怒るかよ?」




黒子:「未遂だったのにボクも怒られました…」




あなた:「バスケ部、屋上立ち入り厳禁だってさ」





コーラを吹き出した火神くんは、店変えようかな…と頭を抱える。





黒子:「あと困ったことになりました。」




火神:「ホントだよ…ああ?!何?!」





あなた:「テツくん、屋上が厳戒態勢で入部条件の約束が果たせなかったから、入部出来なかったらどうしようって困ってるの。」




火神:「それはねーだろ。」






だよね〜、さすがに入部無しはないよねー…





未だ心配そうなテツくんを励ます私。
話し終えた私たちに火神くんが隙をついて聞いた。





火神:「…それより1つ気になってたんだけど、そもそもオマエらも幻の6人目シックスマンとか支え続けたマネージャーなんて言われるぐらいだろ。なんで他の5人みてーに名の知れた強豪校に行かねーんだ。」





帝光に居て新設の誠凛にいたら、そりゃ気になるよね。あんまり根掘り葉掘りされたくはないけれど、





『キセキの世代を倒して日本一になる!』





なんて決意表明聞いた相手に話さないのも、彼に失礼かと思って。




テツくんと私はゆっくりと言葉を紡いでいく。





黒子:「…ボクがいた中学校はバスケ強かったんですけど、」






火神:「知ってるよ」





黒子:「そこには唯一無二の基本理念がありました。それは…」






『勝つことが全て』






そのために必要だったのはチームワークなどではなく、





ただ「キセキの世代」が圧倒的個人技を行使するだけのバスケット。





それが最強だった。





そこに「チーム」はなかった。








黒子:「5人は肯定してたけどボクには…何か大切なものが欠落してる気がしたんです」





あなた:「…最初からチームワークがなかったわけじゃないけどね。薄れていったって言った方がいいかな…」





なってしまったものはしょうがない。




そうやって放ってしまったらきっと楽だったんだろうな。





火神:「虹村、オマエはどうなんだよ。なんでわざわざ、またバスケに関わろうとしたんだよ。バスケが好きだからって以外に理由あんだろ。」





その鋭い質問に、思わず火神くんから目を逸らす。





なぁんで気づいちゃうかな…。出会って3日の人に分かるような私、そんなに顔に出やすいのかな。






あなた:「………選手とマネージャーって、全然違うんだよ。できることも違う。選手はコートの中で。マネージャーはコートの外で。」





その差は一生埋まらないわけで。
線を跨ぐには到底できない。



それでも私は彼らのそばに居た。中学3年間、1番そばに居たのは私だと自分でも言えるくらい。




………それくらい、自信はあったんだけどなぁ。





黙り込む私に、テツくんが心配そうにしている。重たい空気が流れ、またしまったと思っていると、火神くんが沈黙を破った。





火神:「…で、なんだよ?そうじゃない…オマエらのバスケで「キセキの世代」倒しでもすんのか?」



黒子:「そう思ってたんですけど…」



火神:「マジかよ?!」





オレ、ちょっと冗談半分で言ったんだけど、と驚く火神くんと対称にテツくんの目元の表情は冷静そのもので。





黒子:「それよりこの学校でボクは…キミと先輩とあなたさんの言葉にシビれた。今ボクがバスケをやる1番の理由は…キミとこのチームを日本一にしたいからです。」





少しのだんまりが過ぎて、火神くんが席を立つ。





火神:「相変わらずよくそんな恥ずかしいセリフばっか言えんな!てかどっちにしろ「キセキの世代」は全員ぶっ倒すしな。」





月明かりが照った外の夜景、空の夜色を望む。





火神:「「したい」じゃねーよ、日本一にすんだよ!」






___________。






その大きな背中は、私たちを置いて店を出ていった。






黒子:「あなたさん、これどうしましょう。」




目の前のテーブルに置かれた大量のバーガーに2人で頭を抱える。





あなた:「分けよう」



黒子:「分けても食べれませんよ。」



あなた:「分けよう。」



黒子:「…分けましょう。」






テツくんがシェイクを飲んでる間、私はバーガーを口に運ぶ。肉厚が分厚くて、1つでおなかいっぱいだ。




よくこんなに食べれるなぁ…。胃袋どうなってるの。




既にギブな表情の私にテツくんが尋ねる。





黒子:「あなたさん、火神くんどう思いますか」





あなた:「…真っ直ぐで、センスも完璧で、ポテンシャルもあって、バスケが好きで。なんか初心に返った気分になった。」







黒子:「そうですね。キミのその能力があれば、彼は強くなる。」







あなた:「そう…かな。」





黒子:「そうですよ。キミは火神くんに答えなかったけれど、キミがバスケをするもう一つの理由は、ボクと同じで、キミも自分の正しいと思うバスケが正しいと言うことを証明するためにバスケを続けてるんでしょう。」





前屈みになっていた背筋がピンと伸びた。
彼はどこまでも私のことを信じてくれるな、そうやってずっと一緒にいてくれるのだから、心強いったら他ならない。




あなた:「テツくんは私の心理マスターだねw」



そう言う私に、テツくんは大きな目をぱちくりとさせてキュッと笑った。




黒子:「当たり前じゃないですか。」
















あなた:「おはよー苺ー。おはよう、テツくん。」





次の日の朝。窓の外を覗く苺と読書しているテツくんに挨拶する。





黒子:「おはようございます。」





苺:「おはよーあなた。見て〜あれ。誰が書いたんだろー?」





なんだか周りが騒がしく、苺が外を指すので覗き込んだ。




あなた:「…フフッ、"乞うご期待を。"」






火神:「…ハッ!」











『日本一にします。』







その大きな文字に、胸が弾む。







ちなみにとは言うものの、残りの部員は屋上宣言を当然禁止され、部活動時間の声出しとしてやり15人→6人と絞られ、名前を書き忘れたテツくんの校庭文字は謎のミステリーサークルとして誠凛高校七不思議の1つとなった。

















キュッ、キキュッ…ダムッ






スキール音の響く体育館の中で、1度休憩が取られた。





ドリンクを手渡していると、メガネの先輩こと、日向順平ひゅうが じゅんぺい先輩がドリンクを受け取って私に聞く。





日向:「虹村さん、カントク知らね?練習試合の申し込みに行くとか言ってたんだけど」





相田先輩…、ああ、そういえばさっき…





あなた:「さっきスキップしながら戻ってましたよ。オッケーだったみたいですね!」





ダラダラと汗を流す先輩にタオルを渡して言うと、ギョッとした様子で驚く。





日向:「…………!!スキップして?!」





腰に手を当て、声を上げて部員に伝える。





日向:「オイ、全員覚悟しとけ。アイツがスキップしてるってことは…次の試合相手、相当ヤベーぞ。」




その時、扉近くからご機嫌な鼻歌が耳に入る。




テツくん:「あ、カントク…」




リコ:「ただいまー!!ゴメンすぐ着替えてくるね」





声をかけたテツくんには気づかず、ひょっこりと現れる相田先輩。あとね…と付け足してにっこりと笑う。





リコ:「「キセキの世代」いるトコと試合…組んじゃったっ…♡」





黒子:「………!」





日向:「な?」









どうやら再会は早まったようです。

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