日向:「おお〜広〜〜やっぱ運動部に力入れてるトコは違うねー」
私たちは今、練習試合のために海常高校に来ている。
誠凛よりも辺りを見渡せる程の大きなグラウンドに日向先輩は感嘆の声を漏らす。
足を進めていきながら、さっきから気になっていた目の下に隈を作った火神くんに声をかける。
あなた:「火神くん…、その目どうしたの?」
黒子:「僕も気になってました。火神くんいつにも増して悪いです、目つき…」
まさか、火神くんに限って緊張でもしたのかな…?
火神:「るせーちょっとテンション上がりすぎて寝れなかっただけだ」
あなた&黒子:「…遠足前の小学生なの/ですか」
脳内に目をギンギンにさせていた昨夜の火神くんを想像して思わず笑っていると火神くんが何笑ってんだ、と私の頭を軽くこずいた。
黄瀬:「どもっス」
後ろから知った声が聞こえて、そちらに視線を向ける。
黄瀬:「今日は皆さんよろしくっス」
火神:「黄瀬…!!」
あなた:「黄瀬くん」
今日はタンクトップに動きやすいスポーツウェアでこの前と同じようにひらひらと手を振りつかせ、私たちの前を進んでいく。
黄瀬:「広いんでお迎えにあがりました。」
初めてだと迷いやすいんスよここの体育館、と黄瀬くんは校舎に隠れた体育館を指さす。
黄瀬:「あなたっち〜黒子っち〜あんなアッサリフるから…毎晩枕を濡らしてるんスよも〜…」
若干貶しも含まれているように黄瀬くんは悲しそうにため息をつく。
黄瀬:「女の子にもフラれたことないんスよ〜?」
黒子:「…サラッとイヤミ言うのやめてもらえますか」
黄瀬:「だからあなたっちと黒子っちにあそこまで言わせるキミには…ちょっと興味あるんス」
火神くんを鋭く正視する黄瀬くんと同様に虎の如く眼光を飛び散らす。
黄瀬:「「キセキの世代」なんて呼び名に別にこだわりとかはないスけど…あんだけハッキリケンカ売られちゃあね…」
何この間に入れないこの感じ…。
黄瀬くんは涼し気な顔をしながらも火神くんへの敵対心はバチバチだ。
黄瀬:「オレもそこまで人間できてないんで…悪いけど本気でツブすッスよ」
火神:「ったりめーだ!」
・
黄瀬:「あ、ここっス」
案内された体育館内では、スキール音と掛け声が飛び交っていた。
が、誠凛一同、館内に入ってすぐ違和感を感じ仰天する。
リコ:「…って、え?」
あなた:「……片面でやるんですか?」
それにもう片面は練習している。
片面コートのゴールは隣で練習している選手が振動を起こす度に軋む程の年季が入っている。
日向:「てかコッチ側のゴールは年季入ってんな…」
まじでやんのかよ…、と乗り気になれない誠凛は、眉の辺りに嫌な線を刻んでいる。
武内:「ああ来たか。今日はこっちだけでやってもらえるかな。」
こちらに気づいた海常高校の武内源太監督。それに応じてこちらの監督の相田先輩も挨拶する。
リコ:「…こちらこそよろしくお願いします。……であの…これは…?」
目の前に広げられた状況に誠凛から探りを入れる。
武内:「見たままだよ。今日の試合、ウチは軽い調整のつもりだが…出ない部員に見学させるには学ぶものがなさすぎてね。無駄をなくすために他の部員達には普段通り練習してもらってるよ。」
…学ぶものがなさすぎる…、?無駄をなくすために片面コートの練習試合を行うと…?
武内:「だが調整とは言ってもウチのレギュラーのだ。トリプルスコアなどにならないように頼むよ」
散々な物言いに先輩たちも憤りを隠せない様子。
つまりは「練習の片手間に相手してやる」という認識でいいのかな、?
言いたい放題した海常監督は準備に取り掛かっていた黄瀬くんに手を止めさせる。
武内:「…ん?何ユニフォーム着とるんだ?黄瀬!オマエは出さんぞ!」
黄瀬:「え?」
圧倒的な才能を持ち得る黄瀬くんは聞かずとも、入部した瞬間からここのレギュラー入りしていることは一目瞭然だ。
しかし準備万端な彼も意表を突かれたように聞き返す。
武内:「各中学のエース級がごろごろいる海常の中でもオマエは格が違うんだ」
黄瀬くんはそう言われて謙虚に否定するが、お構い無しに海常監督は見下げるように言う。
武内:「黄瀬抜きのレギュラーの相手も務まらんかもしれんのに…出したら試合にもならなくなってしまうよ」
「「なっ…」」
黄瀬:「大丈夫、ベンチにはオレ入ってるから!」
目の色を変えた私たちに黄瀬くんが慌てて、補足を付け足しフォローする。
黄瀬:「あの人、ギャフンと言わせてくれればたぶんオレ出してもらえるし!オレがワガママ言ってもいいスけど…」
振り向いて見せたのは先程の謙虚さとは真逆の蔑んだ表情。
黄瀬:「オレを引きずり出すこともできないようじゃ…「キセキの世代」倒すとか言う資格もないしね。」
反転して、それが私たちを冷静にさせた。
武内:「オイ、誠凛のみなさんを更衣室へご案内しろ!」
移動し始めた誠凛は、更衣室に向かう。
体育館を出る手前、すれ違いざまに私とテツくんは黄瀬くんに念を押す。
黒子:「アップはしといてください。出番待つとかないんで…」
あなた:「いつもより念入りにね」
宣戦布告されたんだ。
こっちからも丁寧にし返さなきゃ失礼だよね。
リコ:「あの…スイマセン、調整とかそーゆーのはちょっとムリかと…」
「「そんなヨユーはすぐなくなると思いますよ」」
気迫たっぷりの用心を促す。
案の定、海常監督はピクリと眉をしかめた。
武内:「なんだと?」
「それではこれから誠凛高校対海常高校の練習試合を始めます」
誠凛のバスケ戦力はまだ、ここ数週間しか目にしていない。
潜在能力が計り知れないのは、火神くんとテツくんだけじゃない。
その侮り加減、後に後悔させてあげよう。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!