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第18話

🍁白狼天狗と秋景色
鬱先生の羅宇屋で買った煙管を吸いながら、息抜きの為に山神屋敷へ向かって妖怪達が通る為に妖術をも施された歩きやすい道を歩く

周りの木々は紅、橙、黄色…と様々な葉が色付いていた。季節の中でも最も美しく鮮やかに彩られる楓に自然と笑みを零しながら歩みを進める


屋敷へ着きそうになり、彼岸花が道端に見えてくると、ある妖怪が紅葉の木の太い枝に座っていた。左足を伸ばして右足は膝を立ててその上に腕を乗せている。それは白狼天狗ことロボロだった。
妖華 藍斗 (イト)
っ…!
声をかけようとして詰まる。それは何故か…

あまりに綺麗だったから。そんな単純な理由で簡単に言葉が出なくなってしまった。

暖色の色彩が溶け込んだような紅葉の木々。その中ですら映える着物が嫋やかに揺れる。緩やかな秋風が顔布を捲りその躑躅(つつじ)色の瞳が覗く。それは何処か遠くを物憂げに見つめていて、その横顔は整っているのに触れたら消えてしまいそうな儚さを纏っている。

葉を揺らし音を立たせるその風は、白狼天狗の白銀の耳や尻尾の毛並みも風向きにそって靡かせる。奥に見える鳥居や社も相俟って一層際立つその美しさは、正に絵に描いたような情景であった。

そして、ひらりと風に飛ばされた楓葉がロボロの顔を一瞬だけ隠した直後、微かに笑っているような気がした。


見蕩れてしまったのだ。その雪月花にも負けぬ程に綺麗な景色と表情に。思わず息を呑んだそれに、煙も一緒に吸い込んでしまいつい噎せてしまった。
妖華 藍斗 (イト)
けほっ、ごほっ…
咳き込んだ音に気付いたようでその白い耳をピクリと反応させ、枝から降りてきた。
白狼天狗
おう、藍斗!何や気付いとったんやったら声かけてくれば良かったんに
妖華 藍斗 (イト)
…いや、ついな
白狼天狗
?
先程の事は本人も呆然としていて無意識だったようで、自覚が殆ど無かったので言葉を濁して誤魔化す。



その流れで屋敷に共に行き、穏やかな陽光と涼しい秋風を感じたいが為に縁側に二人で座った。
白狼天狗
そう言えば、藍斗も煙管吸うんやな
ロボロは顔布を横にずらしてから、いつも俺達と話してくれている。だが、ロボロが完全にこれを取ったのは見た事が無かった。
妖華 藍斗 (イト)
あぁ…たまに息抜きとかいい構想浮かばん時とかにな。大先生とかエミさん程吸わんで
白狼天狗
へぇ、そうなんか…何か意外やなぁ
薄く笑みを浮かべながらそう言う。絵描きだって鬱憤は溜まる。その発散の為に少しばかり嗜んでいる、といった感じだ。大先生程頻繁には吸ってないし、最近はエミさんもそうだと知って少し驚いているくらいだ。
妖華 藍斗 (イト)
…なぁ、ロボロ
白狼天狗
何や?
さっきの微笑みを見て、やはり思ってしまった。あの表情の訳を聞きたいと。些か無粋だし、他人の…ましてや妖怪の心情に深入りした事がないからか、言葉を呑もうとした。だが、抱いた探究心とちょっとの好奇心は疼くばかりで抑えられず、結局聞いてしまおうと、自分の中でその結論に至った。
妖華 藍斗 (イト)
さっきの表情、何考えとったん?
白狼天狗
さっき?…あぁ、見てたんか
心当たりは一応あるようで、俺の言葉を聞くとふっと視線を逸らし天を仰いだ。
妖華 藍斗 (イト)
どうも訳ありに見えた気がしたんやけど…
白狼天狗
久々に過去に浸ってたんよ。郷愁的になったから、そんな表情なったんちゃうか?
何処か他人事のように語ると言う事は、その心境がそのまま顔に出ていると気が付いていなかったという事か。或いは、人の気配が周囲にせず気が抜けていただけさもしれないが。
妖華 藍斗 (イト)
人間より妖怪は長寿やから…やっぱ、色々あったりしたんか
当たり障りの無い言葉を模索しながら話す。聞きたい、でも聞かれたくないかもしれない。そんな利己性と気遣いの狭間で揺れているままに会話を続ける。
白狼天狗
そりゃあな。下手すれば俗人より妖怪の方がそれやっとるからな
妖華 藍斗 (イト)
妖怪にも上下関係みたいなもんあるんやろ?
白狼天狗
そら当たり前やろ。種族の中にもあるんやからな
妖華 藍斗 (イト)
へぇ…細かいんやな
白狼天狗
んー…まぁ、細かいっちゃ細かいのかもしれんけど、種族や個々によって違かったりもするしなぁ…それに、そういうのは慣れやったりもするから
妖華 藍斗 (イト)
ふーん…
妖怪の中でも、上位下位があるのは知っていた。体質上、そういうのを知っていないと最悪命に関わる危険性もあったから。だが、今ロボロが話した事は果たして妖怪内の常識的なものなのか。それとも、ロボロの過去がそれに関係していて人一倍詳しく知っているのか。
それが分からず、自分一人の頭の中で静かに思案する。
白狼天狗
ふふっ、今のお前の心情当てよか?
妖華 藍斗 (イト)
…っ!
自分はそんなに分かりやすい表情だったのかとはっとする。だがその時にはもう遅く、ロボロに気取られた後であった。
白狼天狗
気になるけど聞きにくい…やろ?
妖華 藍斗 (イト)
分かっとるなら言わんでや…
見事に図星を突かれてぐうの音も出ない。何事も顔に出やすい自分に呆れながら言葉を零す。
白狼天狗
はははっ!…ま、藍斗には話してもええか
妖華 藍斗 (イト)
過去の事か?
白狼天狗
軽く捉えてくれな、変えれはしない前歴なんやから
そう言ってロボロは呆気なく話してくれた。



藍斗なら知っとるかもしれんけど、白狼天狗っちゅうのは天狗の中でも下層の妖怪なんや。

前にゾム達に説明する為に言った通り、主に普通の狼よりもかなり年をとった狼か元から力の弱い天狗がその部類に入る。

俺は白狼の方やったんやけど、天狗に変化した時周りよりも風の妖力を遥かに多く持ってしまったんよ。
それだけ言えばそんな損はせんように聞こえるかもしれんけど、それは天狗の中では一大事やったんや。


だって、それやと天狗の中の力の定義と上下関係が崩壊するからな。


あってはならん事なんや…少し大袈裟に言えば、妖怪の世の理にさえ歪みを入れてまう。

俺は生まれ持ってのこの力はどうしようもなかったし、どうにも出来んかった。でも、純真で強過ぎる力っていうのは集団の中で生きるにはただの異端でしかないんや。

個々の集まりで頭抜けた力は邪魔にしかならない。それは俺がその中で否が応でも自覚せなあかん事実やった。

均衡の破綻の恐れの為だけにその中から強制的にあぶれ者にされたんや。要するに仲間はずれ…当時はそんな言葉の響きさえも綺麗に聞こえる程やったけどな

出る杭は打たれる…正にそうやと思ったよ。出ようと思って出てなくとも打たれてまうのが、天狗の俗やった。
他の天狗
お前はいちゃいけない存在なんだ!
白狼天狗
な、なんでや…!俺はただ妖力が強いだけ…
他の天狗
それが危険なんだ!存在自体が危ぶまれるなんて前代未聞だぞ…どうしてくれるんだ!
白狼天狗
っ…
他の天狗
俺達の仲間だって言うんじゃないぞ!もし大天狗様に見つかってしまったら…
白狼天狗
わ、分かった…
他の天狗
貴方が件の異端者ね…近付かないで!こっちに来ないで!
白狼天狗
ごめん、なさい…
その山の天狗達からは犬猿され、排斥されたんや。…当時の俺に居場所も味方も無く、幾許年と四面楚歌。もうこれ以上の絶望は後にも先にも味あわへんやろな。
他の天狗
お願いだ…ここから出ていってくれ
白狼天狗
……承知、致しました
他の天狗
これを持っていけ。…頼むからもうわしらには関わるな。それと、ここの山の名も出すんじゃないぞ
その白狼天狗や木の葉天狗達の住む山の長からも疎まれた。

そうして渡されたのが俺のこの白い顔布。最初はただ真っ白な布で、それは白狼天狗ではなくなった証やってん。それでも俺はこれを付けんとあかんかった。



追い出されて行き場がなくなって、独りで流離ってた時やった。ほんま偶然、グルッペンに会ったんは

それも秋やったなぁ…確か。この山に丁度迷い込んどって、ここを東に歩いた場所にある
山吹色の銀杏(いちょう)が鮮やかに見える場所やった。


山神
…白狼天狗か。何故ここに?そいつらの山はこことは離れた場所のはず
丁度山の様子を見て回てたのか、俺が山に入ったその気配を感じ取ったのか。そいつは銀杏の葉に触れながら横目で俺に話しかけてきた。
白狼天狗
追い出されたんや…均衡を崩す異端者として
山神
均衡を、崩す…あぁ、そういう事か。通りで妖力が強く感じるわけだ。普通の白狼天狗や木の葉天狗はこんな量の妖力、持ってはいないからな
白狼天狗
俺は…こんな力要らんかった。ただこれを稀に持ってしまっただけなんに…何で、何で…!
初めて他人の前で吐露した本音と事実。自分が口に出した事で迫害される悲しさを想起し、俺は胸の辺りの服をくしゃりと握り締め俯き、目尻に涙を溜めてそう零した。
山神
…その妖力は呪うべき力などではないはずだ
白狼天狗
…え?
そう言われたのは初めての事だった。俺は今聞いた言葉が嘘では無いかと思い聞き返そうとするも、疑問符しか出ては来なかった
山神
お前は均衡を崩す異端者何かじゃない。天狗の差別を覆す革命者だ。
白狼天狗
は、はぁ?そんなわけ…
俺にはこの言葉の意味がよく理解出来なかった。異端者何かじゃない…革命者。
だが、俺にかけられたその言葉は決して今までのようなものではないと分かる
山神
その妖力がその証だろう。ついてしまった生まれながらの差は寧ろ誇るべきだ。人より上回る純粋な力を見せて何が悪い
白狼天狗
でも俺はこれのせいで追い出されたんや!この顔布だって…!
山神
だったら俺がその証を変えてやろう
白狼天狗
証を、変える…?
自信たっぷりにそう言うものだから思わずそのまま聞き返す。『変える』と言ったってどうするつもりなのか、分からなかった。
山神
その顔布を貸してみろ。そして俺の屋敷へ来い。
白狼天狗
あんたの…屋敷?
俺はそのままそいつ連れられ、山神屋敷に訪れた。玄関には人間らしき奴が、覡のような服を着て外掃除を行っていた。そして妖力を感じると思い上を向けば、屋根で九尾の狐が転寝をしていた。

人間の覡と九尾の狐を従えてる目の前の奴は何者なのだろう。怪しむまではいかなかったけれど、只者じゃないとは感じていた。
山神
少しばかり待っていろ
という言葉を俺に言い残し、屋敷の中へあいつは入って行った。

覡に促され縁側に座って大人しく待っていた。少し俯かせていた顔を上げると目の前ににあるお社が視界に入る。…そこで俺の中でとある仮説が建った。もしやこの社は彼奴のものなのではないか、と。

何となくそう予想建ててはいた。彼奴ならそうだとしても頷ける何かがあったから。

そして本当に短い時間、屋敷や山を眺めていただけでグルッペンは後ろの襖を開けて来た。
山神
待たせたな。…ほら、これ
白狼天狗
俺の顔布…っ!
渡された顔布は先程までとは明らかに違う事が起こっていた。

文字が書かれていたのだ。『天』と。大きな字で先程まで真っ白だったとは思えない程立派に。

俺が感動で声も出せないでいると、
山神
お前のその力は天に選ばれたものだ。その力に不安になったらそれを付けるといい。

それはもう異端者と泣くお前ではないのだから
それは、俺が初めて言葉で救われた瞬間だった。

ずっと眦に溜め込んでた涙が一筋零れ落ちる。それでも俺は感謝の言葉を紡ごうと目の前の奴を見つめていた。でも、どうしても喉で言葉がつっかえて出てこない。

すると、頭の上に重みを感じた。それはくしゃりと俺の頭を撫でた。瞬時には分からなかったがこれはこいつの手だ。不器用な慰めなのか、何も言葉をかけることは無かったが。

そして、そのまま立ち去ろうとするのを腕を掴んで引き止めた。
白狼天狗
ま、待って!
山神
何だ?
白狼天狗
この顔布、ありがとうな…一生大事にするわ!
山神
それは良かった
白狼天狗
あ、後…その…
山神
どうした?口篭っていては分からないぞ?
白狼天狗
あんたの下に付かせてくれへんか…!
俺にこんな言葉を、こんなに暖かい言葉を与えてくれた人はこいつ以外に居なかった。恐らく一生何処を探してもそんな人は見つからないだろう。俺はこの言葉で言い表せない程の感謝をこういう形で少しでも返せたら…と思い提案した。

俺はその返答が否定だったらと思うと怖くて、少し下を俯いて目をぎゅっと瞑っていた。
山神
ははっ、随分と物好きだな。

いいぞ、白狼天狗。ただ俺は妖怪間の上下関係は苦手なんだ。敬語は使わないでくれ
白狼天狗
…!うん!
こうして俺は、晴れて恩人である神の下に従く事を許されたのであった。





白狼天狗
っていう訳で、俺はここに居るんよ
妖華 藍斗 (イト)
そう、だったんか。だから肌身離さず持っとるんやな
白狼天狗
そうや。これは俺が俺である為のもの…みたいなもんやから
しゅるりと紐を解いて手に持つ。書かれた文字をなぞりながら嬉しそうに笑みを零していた。その笑顔があまりに幸せそうだったから、過去を振り返っても尚現在に満足している証なんだと感じた。
妖華 藍斗 (イト)
…ええ顔しとるな
白狼天狗
ん?何が?
妖華 藍斗 (イト)
いや、俺が見た時ちょっと笑っとった理由が分かったからさ
俺は煙管の煙を燻らせた。過去を聞いてしまった若干の罪悪感を誤魔化すかの如く吐き出したそれは多少の爽快感を伴った。
白狼天狗
何か俺ばっか言うのもあれやし、藍斗も何かあったら言ってな。いつでも話聞いたるから!
妖華 藍斗 (イト)
ははっ、ありがとな
そのまま雑談をしながら鳥居まで送ってもらい、山神屋敷を後にした


…あの情景、絶対絵に描いて見せたろ