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第17話

🍁妖狐のお守り袋
神山が秋色に彩られてきた。木々が紅く染まり、紅葉はひらりと風に揺られ舞い落ちる

それを掌に落とし、嬉しそうに目を細める
九尾狐
ふふっ、ええ季節になったな
そう言って微笑む九尾の狐…オスマンは、木漏れ日を浴びながら秋を楽しんでいた
九尾狐
…そろそろ戻るか
妖華 藍斗 (イト)
あ、オスマン。何しとんの?
人間の声が聞こえその方向に振り向くと、山を登って来た藍斗と目が合い話しかけてきた
九尾狐
藍斗か。いや、ただ紅葉眺めとっただけや
妖華 藍斗 (イト)
あぁ、そうだったんか。綺麗やもんな~紅葉
九尾狐
…こんな所で立ち話もなんやし、屋敷行こうや
妖華 藍斗 (イト)
せやな!


二人は道を歩いている最中も周りの木々に意識を奪われそうになりながらも、何とか山神屋敷へと辿り着いた。中まで入ると折角の綺麗な葉が見えないので縁側に座る。
すると、藍斗がオスマンに話しかけた。


妖華 藍斗 (イト)
なぁ、オスマン。ずっと気になっとったんやけどさ
九尾狐
何や?
妖華 藍斗 (イト)
俺達にわざと探させたあの御守り、オスマンのやろ。何であんなん持っとるん?妖怪なんやから持っとる必要あらへんやろ?
一番最初に会った日、ロボロがオスマンに手渡したあの御守り。オスマンが人に化けて俺に術をかけて探させた紅赤の袋だ。

そもそも御守りとは人間が自分の身を神様にお守り頂けないだろうかと、願掛けのような気持ちも込めてよく神社等で買い求めるもの。
だが妖怪は自分を守る術が人間よりも多い。それに九尾狐であるオスマンは妖力自体が多いはず。非力な人間とは違うのだから、わざわざ持っている必要な無いのではないか?

という趣旨の問いを投げ掛けた。
九尾狐
…中身見てみるか?
妖華 藍斗 (イト)
え、ええの?
九尾狐
おん。…ほら
オスマンが懐に手を入れ取り出したのは、件(くだん)の紅赤の御守りだった。中を見てもいいと言われたので、白い紐をそっと解くと
妖華 藍斗 (イト)
…白菊?
その中に収まる程の調度良い小ささの白菊が入っていた。その花が入っている事にも驚いたが、その美しさにも見蕩れそうになる
九尾狐
そうや。これは思い出の花でな…何となく傍にあると安心出来るから、そこに入れとるんよ
妖華 藍斗 (イト)
なんで入れとるん?…あ、言いたくなければ別に
何で、と聞いた時のオスマンの横顔が感傷に浸っているような表情だったので、控えめに聞く。

…白菊が安心できる理由とは何なのか。気にならないと言えば嘘になるがあまり振り返りたくないものか、人に話したくないのならば、無理に聞き出したくはない
九尾狐
…じゃあ、藍斗に昔話でも聞かせようかな
妖華 藍斗 (イト)
…?  うん
九尾狐
昔…六・七十年くらい前の話。



ある山に住む若い女人がいた。その女は山と自然が大好きで、成人してからと言うもの親元を離れ山奥に1人で住めるような家に住んでいた。

そこの山は狐が多く住んでおり、悪戯はさほどしないが中には化かす狐…つまり妖狐がいるとされていて町の人々からは恐れられていた。


…丁度、こんな風に秋に山が染まった頃。山菜取りと動物を見に山の中を歩いていた女人は、とある妖狐と出会った。いや、出会ってしまった。

人間の姿形はしているものの、狐の耳と尻尾が出ている…人間からすれば明らかな異形。それでも彼女は受け入れた。貴方は誰?と話しかけてくれた。ただ、優しく微笑んで
こんな体験は初めてだった…いつも、人間に化けて接する時は接しているのにその時は紅葉に見蕩れて、つい化け術を忘れてしまった。なのに、怖がらず蔑まずその妖狐自身を見てくれた。

それから、よく会うようになった。最初は女人が河川の近くに会いに来てくれたが、家の場所を教えてもらってからは妖狐が家に訪ねたりもした。
女人
ねぇ、妖狐さん
九尾狐
どうしたん?
女人
私ね、この花が大好きなの
九尾狐
白い…菊?
女人
うん!この花はね、秋に咲く花なのだけれど。どの花よりも純白で飾り気のないう美しさを持っていると思うの!
…あ、ごめんなさい!勝手に語ってしまって
九尾狐
ううん、とても素敵だと思う。君にぴったりや
女人
ふふっ、嬉しい



とても楽しい日々を過ごした。幾つもの季節が巡り、時の流れをも早める何年だった。

自然と心を許し合い、互いを知りたがり、その隣に並ぶだけで笑顔が浮かぶような…そんな毎日。


…でも、それから何年か経つとその女人は頻繁に山から降り町へと出かけるようになった。

その事自体は、別に意義を唱える程のものでは無かった。彼女の意思を邪魔するつもりは毛頭無かったから

昼に会う時も何となく物言いたげに口を開きかけては閉じ『何でもないです』と、少しもどかしそうに笑う場面も増えてきていた
そんなある日…

山に複数の人間が登ってくる気配がした。それはよく見てみると、山の麓にある町から登ってきた様子の住民の男達だった。

妖狐は人間の姿に化け、わざと河の下流の辺りに佇み、水を汲みに来ただけの人間の男と見せかけた。
住民
なぁ、そこの兄ちゃん
若人
何です?
住民
ここら辺で化け狐見なかったか?
若人
いいえ、見てませんけど…
住民
そうか。もし見かけたらすぐに俺らに言ってくれ!
若人
はい
そうして、俺の前から過ぎ去ろうとした時
住民
…なんて言うと思ったか?
若人
え…?
住民
和尚(おしょう)!こいつで間違い無いんだな!
和尚
ええ、こやつからは妖気を感じます故
住民
皆の者!こいつを殺せ!
九尾狐
僧がおったんか…!
逃げようと山を掛け上がろうとする。でも、一人の武士に追いつかれ手首を切り落とされそうな程深く切られた
九尾狐
痛っ…!!
女人
やめてください!!!
そう叫んだのは他でも無い、あの女人だった。
和尚
何を言っているんです!こいつは妖狐で貴方を汚してしまう…
女人
妖狐でしょうが何でしょうが、その人に敵意は全くありません!無駄な殺生を増やすだけです!その証に、彼は貴方達を切られても傷付けようとはしなかったでしょう
住民
そ、それは…
九尾狐
っ…!
その妖狐は女人が必死に武士達を説得している間に、山奥へと姿を消した。

恐らく彼女もその時間稼ぎをしてくれたのだろう。その妖狐がその場から消えるまで、やめろと言い張った。



その日の夜。女人は妖狐の元を訪れた。彼女が夜に妖狐と会うのはそれが初めてだった
女人
妖狐さん。あの、話があるのですが…
九尾狐
何や?
女人
今日は申し訳ありませんでした!
九尾狐
な、何で!君が謝る事じゃ…
女人
…順を追って説明致します。

実は私、武士の方と婚約する事になったんです
九尾狐
良かったやん!女性としての幸せ、掴めたんやろ?
女人
…っ、そうなのですが
九尾狐
大丈夫。何を言っても、攻めたりはせえへんよ
女人
はい…。
その彼は武士としては地位が高くはなくとも、そして人に好かれる方なので色々な人が味方に着くような人なんです。
そして私が住んでいるあの山に化け狐がいるという噂を掴んだ、妖怪嫌いの彼の友人達が和尚様を連れて貴方を退治しようとしていたのです。勿論、これは彼からの依頼でも何でも無く彼等が勝手にやってしまった事なんです。…本当にすみません
彼女は妖狐に頭を下げてまで謝った。

別にその事に関しては何も怒ってなどいない。寧ろこの怪我だけで済んだのは彼女のお陰であり、その彼女の言葉で留まってくれたあの和尚のお陰なのだ。

…なのに、何故か涙が零れそうで仕方が無かった。生まれてこの方生きてきてこんな心の底からせり上がってくる訳の分からぬ悲しさや寂しさの正体が分からず、幾らか化け術を軽く使って歪だった表情を整えていた。

この時俺はこの化け術に深く感謝をしたかもしれない。
九尾狐
別に大丈夫だよ。傷も大した事ないし!それに君が止めてくれたから助かったんや。ありがとうな
女人
ふふ、お優しい…ですね。相変わらず
少しぎこちない笑顔を浮かべてそう言う。何かに戸惑っているようだった。
九尾狐
そうか?もしそうなら君のおかげやな
女人
何故…ですか?
九尾狐
俺は君と出会って確実に変わった。君が笑いかけてくれるから、色々な事を教えてくれるから、俺の隣を歩いてくれたから、いつしか随分と穏やかになったんよ
女人
…そう、ですか。…っ、妖狐さん、私もうひとつ言わねばならない事があるんです
九尾狐
何や?
妖狐の声を言葉を聞く度に、哀しげな表情で言葉を詰まらせる。
女人
どうしても、この山を…降りる事になったんです…ごめんなさい
九尾狐
何で謝るん?君が幸せになれる為のもんやったら、君が選んだ選択肢なんやったら、俺はそれでええと思うよ
そう言って妖狐は精一杯笑いかけた。彼女が涙を流さぬように。最後だと分かっていたから、笑顔で終わらせられるように。

女人
っ…!…それで、これを渡したかったんです
九尾狐
何?
女人
御守り袋と、白菊です!私の代わりと思って下さい。…一人じゃ、ないですから
彼女は妖狐にまた穏やかに微笑みかけた。心の底からの優しさで妖狐を救い、妖狐を一人にさせまいとした。これは彼女の考えた精一杯の善意の具現化であった。

妖狐は手渡されたその鮮やかな紅赤を指の腹でゆっくり丁寧に撫でた。この時随分愛おしそうな表情をしていたと思う。宵闇で幾らか表情が見えづらくて本当に助かった。
九尾狐
ふふっ、ありがとな。一生大事にするわ
女人
貴方の一生は随分と長いでしょうから、それまでに朽ちぬといいですね
九尾狐
…これは、この御守りは絶対に朽ちないし褪せないよ。綺麗な紅赤やね!まるで紅葉や
女人
前に、紅葉が好きだと言っていたからそれを表現してみたんですが…どうですか?
九尾狐
世界で一番鮮やかな紅赤やな!
女人
ふふっ、嬉しいです!
その日は十五夜で満月には一つ欠けた月であった。その欠乏が、まるであと一歩何故か満ち足りぬ妖狐の心を表しているようだった。

その夜は、真夜中まで二人で話をした。これまで出来なかった話も、過去の思い出話も沢山してもう後悔が後を引かないようにと、涙を決して零さぬようにと、必死にひた隠した感情を出さぬようにと、妖狐は言葉を紡ぎ続けた。




その翌日、彼女は山を降りた。
その後何年待ったとて彼女がもう一度妖狐に笑いかける事も、隣を歩く事も無かった。

そうして妖狐はその山を自然と離れた。


もう自分がここにいる意味は無い…と。


後になってその妖狐は気付いた。自分はあの女人に恋情を抱いていたのだと。…気付いてしまった時にはもう後の祭り。打ち明ける事も出来ず、結果も分かりきっている。

でも、結局妖狐はそれで良かったのだと思えたし、結局打ち明けなかった事を後悔なかった。
彼女は、本当に心から愛せる人間を自分の手で探し出す事が出来たのだから。それに人間と妖怪だ。種族的にも元から相見えるべきではない。

…そう、だからこの涙は意味の無いものだと言い張った。それでも自分で気付いてしまって溢れた涙は、止めどなく頬を伝って零れ落ちた。それを何度繰り返したかもう指では数え切れない。

秋夜の十五夜に思いを耽ける感傷の時すら、愛おしくなってしまう程に、物悲しさと寂寞は彼女との思い出の一幕に涙痕を残した。


それでも彼はその女人を忘れず、今も貰った御守りと白菊を朽ち褪せぬようにと抱いている。

九尾狐
おしまい。どうだった…って、え?
妖華 藍斗 (イト)
何?
九尾狐
何ちゃうわ!なんで泣いとんの!
藍斗の目尻から一筋の透明な水が頬を伝っていた。それは本人も気付かぬほどに無意識に垂れていたものだった
妖華 藍斗 (イト)
え…?あっ、ほんまや!
九尾狐
ははっ、藍斗は感受性豊かなんやな〜。でも安心せい。今の全部即興の作り話やから
妖華 藍斗 (イト)
はぁ!?
九尾狐
狐の作った話に泣かされるってどうなん?
妖華 藍斗 (イト)
どうも何もあるか!…じゃあ結局、その白菊の意味は何なん?
思いもよらぬ返答につい拗ねたように尋ねる。我ながら子供だなとは思うが…オスマンの話し方やその過去物語に完全に引き込まれ、感情移入でもしてしまったのだろうか。自分でも泣くだなんて思っていなかった。
九尾狐
俺がただ好きな花やから人間に化けて買ったこの御守り袋の中にそれ入れとるだけや。本当は小さい腰巾着みたいなもんにしたかったんやけど、この色えらい気に入ってしもて…つい買ってまったんよ。だからこれに入れとるっちゅうだけ
妖華 藍斗 (イト)
…何か、泣き損なんやけど
九尾狐
はははっ!知るかいな。狐に化かされるならぬ泣かされる、やな
妖華 藍斗 (イト)
そんな造語作んなや!…てか、それだとただただ脅かされてるような文面にしかならへんで?
九尾狐
…あ、ほんまや
妖華 藍斗 (イト)
あーあ、何か凄ぇ損した気分やわ…俺の感傷返せよ
九尾狐
感傷なんて返してどうすんねん。まぁ、悪かったよ。待っとって、今お茶淹れてくるから
妖華 藍斗 (イト)
よっしゃ
オスマンは縁側から立ち上がり、身を翻して襖を開け屋敷の中へと入って行った。その時、袖が一瞬だけひらりと舞い中の腕が覗いた。…それを藍斗は見逃さなかった。


…オスマン、分かっとるよ。それが嘘じゃないなんて、作り話じゃないなんて。裂傷の跡残っとるやんけ。

それに、気付いてなかったみたいやけど、偶に一人称視点みたいに言っとる部分があったからな。その時点で既に分かっとった。

でもそれと同じく、お前がその恋を引き摺ってる訳じゃないってのも分かったよ。もし引き摺っとったら、まだその山におるやろうからな。
妖華 藍斗 (イト)
ええ仲間、出来たんやな…
九尾狐
…ん?何か言った?
妖華 藍斗 (イト)
何も言ってないで。あ、お茶ありがとな
藍斗は夕暮れ時になる前に帰って行った。それを鳥居まで見送った後、オスマンはポツリと言葉を零した



九尾狐
気付かれとるんやろうな…
藍斗はああ見えて鋭い奴だ。所々つい言ってしまった部分に違和感でも覚えているだろう

それにしても初めて人間に過去を話したな。藍斗だから話せるのかもしれんけど
九尾狐
『白弌 菊』

…ほんまそっくりやんな
あの女人と面影が重なるあの子。白弌蘭は、菊の息子か孫なのだろう…菊はあの武士が守ってくれたのだろうから、今度は俺が蘭の運命の人が見つかるまで守っていきたい。


あの恋は無駄じゃなかった。あの時間は無価値じゃなかった。


だって、妖怪と人間の垣根を越えて今妖狐らは交わる事が出来ているのだから










白菊の花言葉:真実、誠実な心
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サク
どうも皆さん、サクです
サク
初の番外編…という名の過去編如何でしたでしょうか?
何かこう、ベタな恋愛モノが書きたいなと!
でも普通に書いたらつまらんなと!
じゃあ、一捻り加えてみようと!

…そうしたら失恋させてしまいました。
ごめんね、妖狐くん
サク
まぁ、そもそもくっついてしまうと物語の構成上あんまり宜しくないので元からそのつもりっちゃそのつもりでした。
ごめんね、オスマンさん
サク
という訳で、今回はこの辺で
バイバイ~