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第15話

最大の秘密
山神
どうやら、人間を侮り過ぎたようだな。…サグメ
妖華 藍斗 (イト)
っ!グルさん…!
いつの間にか俺の後ろにグルさんがいて、あの人影の名前らしきものを呼ぶ。グルさんは自然に俺の肩に手を掛け、俺の前に立つ。そして、俺の首元をちらりと見て顔を顰めた。
…あ、急いどって隠すのすっかり忘れとった。

そのグルさんはいつも隠していた左目の髪を退け、瞳が見えるようになっていた。その目は吸い込まれそうな程に鮮やかな青藍だと横目でも分かった。
覡(かんなぎ)
ずっと遠目から見とったよ。ほんまは参戦したかったんやけど…
九尾狐
あっという間に倒しよるから、俺らの入る隙無かったな
白狼天狗
全員息ぴったりやったなぁ。戦闘慣れしとらん奴も居たんに
鵺(ぬえ)
やるやんけお前ら!!
火車
俺に藍斗の守護全任せにしといて、うるさいっすよ
頼もしい妖怪達が俺らの傍に来てくれた。
天探女
…正義の味方やってんじゃないわよ!たかが山神風情のくせに、私より幸せだなんて許せない…!
空井 蒼 (鬱先生)
ただの逆恨みやんけ
大先生にしては珍しい、かなり頭にきているのが一目で分かるほどに表情に感情が出ていた
天探女
うるさい!愚者が!…気に食わないのよ、あんた達が!
山神
愚者は、どっちだろうな
天探女
は?あんたに決まって…
覡(かんなぎ)
よく思い返せや。お前をグルさんは何と呼んだ?
天探女
サグメ…
…っ!え、何であんたがその名前で…
従神である天探女は、自身よりも上の神格を持つ神から時折、サグメと呼ばれていた。言わば、愛称やあだ名のようなものなのだ。
…ただ、その事を知るのは勿論彼女よりも上の神だけという事が重要である。
九尾狐
気付くの遅過ぎやろ。それに相手の神力も分からへんとか、あんたどんだけ目ぇ無いん?
白狼天狗
天探女。お前の性分はよう知っとる。けどな、喧嘩を売る相手を致命的に間違えたな
鵺(ぬえ)
俺達が手を出すまでも無いな。
火車
視野を狭め過ぎっすよ。何も見えていない
天探女
うるさい、うるさいうるさい!あんたらなんか死ねばいいのよ!!
頭を振り、全ての言葉を押し退け神力を最大限に使おうと構える。何と言えど神の、しかも負の感情が篭った神力と言うのは非常に強力な力を持つ。そもそも普段の神の力を行使するだけで、悪鬼を操る事も出来るのだ。こんなものを人間相手に打たれては一溜りも無い。

だか、
山神
…『宵』
そう一言呟く。すると空が段々と夜のように暗くなり始めた。と言っても、完全に夜になる訳では無く、薄明の時の空のようになった。…今は日中なのに
天探女
…え?ど、どういう事!?
あれだけ力が溜まっていたのに、宵になった瞬間その力が雲散していった。
山神
たかが山神風情?笑わせる。ここにいるにはその名義を使うしか無かったんだ。俺がここを気に入ってしまってな、そう言わないと連れ戻されるだろう?
天探女
夜…サグメ…
…!!…貴方、いや貴方様はまさか…っ!
段々に声を震わせながら、言葉を詰まらせた。俺はその訳が分からずにいたが、次のグルさんの言葉で全て知る
月読命(つくよみのみこと)
あまり言いたくは無かったのだがな。『月読命』。それが俺の神の名だ。
…俺はこの名前嫌いなんやけどな
覡(かんなぎ)
力使い過ぎんでな。麓の町の住民にあんま不信がられるのも嫌やろ?
月読命(つくよみのみこと)
それは嫌だな…分かった。早めに済ませる
九尾狐
俺らほんまに出る幕無いな〜
白狼天狗
それやと楽やなって思っとるやろ…
緑屋 望 (ゾム)
…は?え、今昼やった…よな?
黄田 紗緒 (シャオロン)
どうなっとんねん…
栗川 瑛見 (エーミール)
つくよみのみこと…?単なる山神じゃ無かったんですか…!?
妖華 藍斗 (イト)
嘘、やろ…月読命って…!
空井 蒼 (鬱先生)
あぁ…お前神話も好きやったな。知っとるんか、グルッペンの正体
妖華 藍斗 (イト)
日本っちゅう島国の創造神の1人とされてる夜を司る神様や。三貴神の一人とされてて…まさかほんまにそうやったなんて…!
さっきの宵って言うのは恐らく、強大な神力の発動条件みたいなものなのだろう。それかもしかしたら天への合図なのかもしれない。それに、先程の昼間を夜のように強制的に暗くさせる力…本物や!本物の月読命や…!
橙河 智乃 (チーノ)
そんな目に輝きを灯すなぁ…でも、そのツクヨミ?になってもここの山の山神には変わりないんやろ?
妖華 藍斗 (イト)
まぁ、さっきのグルさんの言葉を聞く限り…
天探女
…っ、
口を金魚のように動かし、後ずさりながら恐れている天探女。その様子にグルさんは近づいて行く
月読命(つくよみのみこと)
今回は恫喝だけで済ませるが、次にこの山と町に何かしたらなにかする所じゃ済まないからな
眉間に皺を寄せる事もなく、怒りを表情に出す事もなく、ただ淡々とそう言ったように見える。が、それが余計に怖くなる程に言葉にも声色にも確実な憤怒と冷酷さが含まれていて、今に喉が締まりそうだ
天探女
…っ、っ…!
その殺気を眼前に受けた天探女は、声も出せず泣きそうな表情で何度も首を縦に振る。それはそうなるだろうな、と思わざるを得ない。だって明らかに格上の相手に私怨で手を出したなんてなれば、神の世界も軽く騒がせるだろう。特に月読命となれば。

そして、逃げるように走り去って行こうとしてグルさんが
月読命(つくよみのみこと)
『送』。…天界へ帰れ
鋭く冷たい目付きで睨みつけながら、手を翳すと…天探女はその場から消え去った。まるでそこは最初から誰もいなかったかのようにように、影も形も気配も消えた。
覡(かんなぎ)
…終わったな。天探女はもうこの山には立ち入らないやろな
トントンと言葉とグルさんの言葉からして、天探女を天界に強制送還したという事だろう。これから一生この山に絶対に来れないという訳では無いらしいが…まぁ、来るわけないやろな。
九尾狐
まぁ、これでまた入ろうとは思わんよな
鵺(ぬえ)
ふぅ〜…久しぶりにあんな殺気放つグルッペン見たわ
火車
俺なんか初めてっすよ…
白狼天狗
あはは…最初は圧倒されるよな。後は慣れしかないで
俺はグルさんが今まで見せなかった一面を、俺ら人間に見せてくれて尚且つ、町の人間に嫌われるのが嫌だという発言を踏まえて、俺はこう思ってしまった。
妖華 藍斗 (イト)
(本当に信仰するべき神様ってこういう人のことやろな…)
黄田 紗緒 (シャオロン)
…と、イト…藍斗!
妖華 藍斗 (イト)
っ!な、何?
シャオに肩を叩かれ、漸く意識が鮮明になる。俺は呆然としていたようだ。
黄田 紗緒 (シャオロン)
大丈夫か?ぼーっとしとったけど…
妖華 藍斗 (イト)
あぁ…いや、全然大丈夫や!
白弌 蘭 (ひとらんらん)
あっ!そう言えば、シャオが今朝言ってた子供達…もしかしてどこかに居るんじゃない?
白狼天狗
あぁ、それなら神術にかけられて眠らせられとったから屋敷に寝かせとるよ。後は、オスマンの術で全部夢やと思わせるだけ
緑屋 望 (ゾム)
もう見つけとったんか
栗川 瑛見 (エーミール)
じゃあ、全ての危機は去ったって事ですね…!
橙河 智乃 (チーノ)
はぁぁ…一件落着やな
妖華 藍斗 (イト)
かなり大きい一件やったけどな…
皆で大きなため息を一つ吐き出す。これで全ての危機は去った。後は子供を返して、疫病みを治すだけ。悪鬼が居なくなって、これ以上疫病みが酷くなる筈が無いから、安静にしてれば治る風邪のような症状だろう。そしたら治すのは簡単だ
白弌 蘭 (ひとらんらん)
…ん?あそこに何かない?
緑屋 望 (ゾム)
あ、ほんまや。ちょっと見に行ってくる
ひとらんが指で指し示したのは、天探女が丁度居なくなった場所に何やら光るものが落ちているからだった。それをゾムが確認しに行く。…あ、もしかしてそれ
九尾狐
これ…イトが貰った翡翠の勾玉ちゃう?
妖華 藍斗 (イト)
ほんまや!ありがとうゾム、ひとらん!天探女に取られてどこ行ったか分からへんかってん
鵺(ぬえ)
壊されてなくて良かったな!
妖華 藍斗 (イト)
おん!
ゾムから手渡された勾玉を握り締め安堵する藍斗を、グルッペンが横目で見ながら少し照れたように指で頭を掻いていた。自分が渡した物を大事にされてるのが嬉しかったんだろう。

それを見逃さなかったトントンがこういうのを見られたくないグルッペンの為に話を逸らし、人間達を町に早く帰った方がいいのではと促した



その言葉通りに山を降りていく。わざと遠回りするのも忘れずに。

町へ着いた頃にはもう日が暮れかけていたものの、町はやはり喧騒が所々あった。恐らく先程のグルさんの神力で夜になりかけた事だろう。

あれを禍殃の予兆では無く、吉兆の印として受け取ってもらいたいものだが…


俺らが何を言ったって余計に不信感を煽るだけならば、今夜起こるこの悲劇の終焉まで黙って見届けようと住民達に下手な声がけはしなかった

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