第13話

十二話 ブラック?
573
2021/04/03 06:30
歓迎会が終わったあと、先に失礼し、ようやくお風呂に入る。屋内の大浴場と露天風呂があり、折角なので露天風呂に入ることにした。身体が身体。最初は脱ぐのに抵抗があったが、すぐにミニタオルを巻いて浴場へ行く。
灰峰
灰峰
(今日だけでそれなりに情報が集まったな。主に審神者の性格や普段の私生活についてだけど)
身体や頭を洗い終えたあとは夜空を見上げながら露天風呂に入り、今日のことをぼんやりと振り返る。他にも、審神者の恋人は審神者と言う職業を知っているのだろうか、審神者は刀剣男士をどう認識しているのだろうか、などの疑問を抱く。
灰峰
灰峰
(うーん、だけどこれって“ブラック”って言えんのかな。全部話を聞いただけで、俺が実際に見た訳じゃないしな。そういやぁ、くろのすけのお友達のこんのすけは見てないな。今はいないのか?)
特に何かした訳では無いが、一日の間に色んなことが起きたせいか、若干疲労が溜まり、眠たくなってくる。
灰峰
灰峰
(そうだ……三次元の方どうなるんだろ。行方不明とか、実は今いる自分はただの意識ある“魂”で、本体の身体はそのまま三次元にあるのか……謎だなあ)
目を瞑っていると、眠気で軽く意識を失いそうになるが、何とか堪える。
早く上がろうと思い、目を開けると何かの気配を感じて隣を見た。
三日月宗近
三日月宗近
誰かと思ったら、“主役殿”では無いか。お前もこの時間帯に風呂とはなあ
灰峰
灰峰
いつの間に
隣には知らぬうちに三日月爺さんが居て、内心驚く。自分がうたた寝しそうになり気付かなかったにしても、音と気配がなさ過ぎる。
灰峰
灰峰
(爺さん怖っ。てか、俺本当は男じゃないから妙に罪悪感が……。取り敢えず正面だけ見てよう。にしても……)
チラッと三日月爺さんの方を見るが、水も滴るいい男とはこのことを言うのだろうか。
同時に、自分の環境適応能力に良い意味で呆れてしまう。男性の上半身を見ただけでも恥ずかしがる人も居るみたいだが、生憎、学生時代では教室で着替えてる男子達の中に平然と入って、気付かれないこともあり、俺は見慣れている。
灰峰
灰峰
(あの時、何で入ったんだっけな。あんまり良く覚えてないけど、控えめな女の子に頼まれてその子の忘れ物取りに行ったんだっけか。教室では男子が騒いでたから呼ぼうにも聞こえないみたいだったし、俺も忘れ物してたからな)
三日月宗近
三日月宗近
政府から新しい刀剣男士が特別に来ると聞いて、主が喜んでいたぞ。明日は初陣だろう?折れぬ程度に頑張れ
灰峰
灰峰
頑張るには頑張りますけど、戦に出た回数で言えば皆さんの方が能力値が高いと思うのであまり期待はしないで下さいよ
三日月宗近
三日月宗近
なに、心配は要らんさ。いざと言う時は頼ればいい。その為の仲間だ
三日月爺さんはそう言って優しく微笑んだ。
そんな三日月爺さんに俺はある質問をした。
灰峰
灰峰
顕現して、嫌なことってありました?
三日月宗近
三日月宗近
嫌なこと?
灰峰
灰峰
はい。何でも良いんで
俺が聞くと、三日月爺さんは少し考えてから「そうだな……」と口を開いた。
三日月宗近
三日月宗近
畑仕事は腰にくる
灰峰
灰峰
(そっちかぁーじーさん)
三日月宗近
三日月宗近
だが、どれも新鮮なことだらけで俺は楽しいぞ?
灰峰
灰峰
はは……其れは、何よりです
一日目からある程度の情報は集まったが、どれも“ブラック”と断定するには、まだ証拠が不十分且つ浅い。強いて言うなら、現状では“グレーゾーン”だ。今の状況で感情的になり、ブラックだと断定する者も居るかもしれないがそれでは視野が狭くなってしまう。
自分が調査する立場になり、改めて思ったのは、警察の様に“外部”から証拠を取り押さえる必要がある職業も中々苦労するものだと言うこと。策を練って基本的に“外部”で相手の罪を目に見える形で暴かなければいけない。
灰峰
灰峰
(それで言うなら、今の俺は“内部”からかな。決定的証拠にしては不十分だが、修行に関してはちょっと気になるな。審神者は鶴さんにその内行かせるとは言っていたが……)
三日月宗近
三日月宗近
そう言えば、明日は主が恋人を連れてくるらしいぞ
灰峰
灰峰
へぇー恋び……は?本丸に?
三日月宗近
三日月宗近
新しい恋人“も”皆に紹介したいらしくてな
灰峰
灰峰
マジですか
紹介とは言っているが、本当にただの紹介なのだろうかと考えてしまう自分は、疑り深くなっているだけなのだろうか。
灰峰
灰峰
(“も”ってことは前の恋人も来たって事だよな?それで別れたんだろう?審神者の仕事が一般にも公開されてるかどうかは知らないけど、公開されていないのだとしたら現世に居る云わば“部外者”を何度も来させるのはどうなんだろうか……)
長義君の話によれば、今の恋人とはもうそろそろ潮時だろうとの事だし、今更紹介する必要はあるのか。そして、再び別れたとして、新しい恋人をまた連れてくるのだろうか。
身内とも呼べる刀剣男士に自分の恋人を紹介するなんて、捉え方次第では律儀とも言えるかもしれないが、何回も恋人を紹介される身としてはまたか……と思うかもしれない。
灰峰
灰峰
(やっぱりよく分からんなぁ)
そんなことを考えているうちに、眠気は消えていた。

プリ小説オーディオドラマ