第8話

惚れた方の負け
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2021/01/04 14:00
ブチャラティ side





「彼女なら帰りましたよ。護衛をつけてくれてもジェラートのパシリにするそうです。」





やっぱり帰っていたか…

会いたかったがこの時間じゃ仕方ない

それに、確か今日は金曜日だったな


路地裏には、既に畳まれたテントと呆れたフーゴが待っていた





「今日はアバッキオと仕事だったのでは?」

「こっちは俺の野暮用だからな、先に帰らせたさ。」


「そうですか…。ちなみに彼女、何者です?」





俺もさっぱりさ、と笑うとですよねと返されてしまった

でもフーゴが丸一日一緒にいれたんだ

きっと嫌いなタイプじゃなかったんだろう





「できれば俺が護衛したいんだがな、パッショーネへの勧誘は蹴られちまったからよ。悪いな。」

「…それ、大丈夫なんですか?

あなたの勧誘、ポルポがボス直々にされた命令なんですよね?」

「…らしいな。でもあなたが嫌がってんなら仕方ないさ。」





本人に自覚はあんまりないようだが…


今裏社会では“例の魔女”をどこが引き入れるかでバチバチしてやがる


最初はいい腕の殺し屋でも取り合ってんのか?と思っていたが…

裏でのあなたの通り名が魔女だと知り、俺は焦ったさ

まだポルポに俺とあなたが親しいのがバレていないのが幸いだった

もしあなたが、裏社会に関わる気がないのならどうにか遠ざけたい





「…あの闇医者業、お金のためにやってないそうですよ。」

「え??」

「今日来た横暴な金持ちの客に、彼女は10億リラふっかけたんです。」

「…!?」





さらにその金持ちは、好きな数字を書けと小切手を渡したらしい


確かにあなたのスタンド能力は強力だ

ある程度の怪我や病気はなんでもなおせる、そのくらいの金を要求してもおかしくはないか…





「それで帰る彼女のあとをつけたんですが、路上にいる姉妹に小切手を渡して、家に帰って行きましたよ。」

「…俺もまだ家の場所知らないのに、フーゴやるな。」

「ちょっと、僕にそういうつもりは無いですから。」





近所の人によると、その姉妹は親の借金でストリートチルドレンになったらしい

返済もできておらず、ずっと路上生活を続けていたそうだ

…確かに、そりゃ金目的じゃねえな…





「…フーゴにはお見通だな。

弟の学費と、一生の生活には困らない額を用意しようと思ったんだが…ダメそうか。」


「別にパッショーネに加入させる方向でいいのでは?あの仕事なら、後ろ盾はいつか必要になるでしょうし…。」





でもギャングに関わるのは普通なら抵抗があるだろう

あなたは違う理由のような気もするが…


フーゴが、随分厄介な女に惚れましたね、と笑う





「…厄介くらいが燃えるだろ?」

「やはりそうなんですね、わりと強い女性が好みなんですか?」

「かもな、あなたの凄味のある鋭い目つきで断られるのはグッとくる。」





…フーゴが黙ったので、慌てて冗談だと言う

俺の冗談は通じ辛いんだろうか…



…あの日、ドンパチで1発腹にくらった俺は一か八かの神頼みだった

どんな傷でも治す医者、なんて普通信じるやつはいないだろう





「ま、惚れた理由なんてある方が格好悪いだろ。」

「…でもあの容姿で庶民派な性格じゃ、きっとライバル多いですよ。」

「ははっ、確かに屋台のジェラートで満足するもんな。」





あなたのいう高級なジェラートはどんなもんか楽しみだよ

だが、まずはそこに連れてくためにデートに誘わなきゃあな





「チャオ、来週の俺は自分の野暮用で忙しいから仕事の指揮は頼んだぞ。」

「…はいはい、わかりましたよ。」





フーゴをアジトまでおくり、俺も帰路につく

ちなみにフーゴは家がないので、彼に基本アジトの管理を任せている

15歳だと言うのに本当頼りになる部下だ


…アバッキオとあなたは相性が悪そうだし、護衛が頼めそうなのはフーゴとナランチャだろう

なんて事をボケっと考えていると、いつもあなたがいる路地手前に戻ってきていた


…きっと今日の俺は疲れてるんだろうな

踵を返した時だった





『よぉ、ガキ。生きてるー?』





「…!?」

『なんちゃって。うちはとっくに閉店してるけど、なんでいんの?』


「あなた…こそだ、こんな時間に出歩いているのは危ないだろ…。」

『なんでそんな驚いてんの? 普通に忘れ物したからとりきたのー。』





そう言うと、あなたはたたまれたテントの上においてあったハンカチを回収する

まさか今日会えると思っていなかった俺は、しばらくかたまっていた





『本当、死に際のネズミみたいな顔してるけど大丈夫?まじで悪いとこあるなら治すけど…。』

「…ちょっと驚いてるだけだ、疲れはあなたに会えたから吹き飛んださ。」

『まじ?なら元気じゃん、良かった良かった。』





じゃねーと言ってあっさりと去っていくあなた

手を、何故か反射で掴んでしまう





『ん?』

「いや、その…送ってもいいか?…ほら、この時間だろ。」

『あら紳士。ならお願いしようかな。』





断られなかったことにまたも動揺してしまう

彼女は呑気に、コーヒーでも買って飲みながら帰るかーとぼやいた

いざ彼女を前にすると、どうしても格好つけられないな…

それには賛成だ、と俺は彼女の横にそっと並んだ

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