それは、突然訪れた。
私は、ある日の放課後、スマホを教室に置いてきた事に気がつき、教室に向かって全速力で走っていた。
「はぁ、はぁ、」
教室に着いて、机の上にあったスマホを取る。
ふと、私の手に注がれる視線に気がついて顔を上げると、そこにはクラスメイトの結城茜が立っていた。
「あ、結城さん!結城さんも忘れ物?」
「ううん、違うよ。」
そう言って茜は静かに笑った。
「じゃあ、何をしに来たの?」
「……つ…よ」
「え?」
茜があまりにも小さな声で言うので、思わず聞き返してしまう。
「ううん、なんでもない。」
茜はまた微笑んだ。
その笑顔があまりにも寂しげで、私は困惑する。
何かあった、のかな…?
でもそれはただの赤の他人の私が関わっていい様に思えなくて。
「そ、そっか…」
…結局、曖昧な言葉しか掛けてあげられなかった。
「帰らないの?」
「うん、結城さんと話してみたくて。」
「……でも、私と話してる所を誰かに見られたら、有馬さんが虐められるよ?」
「?、別にいいよ!」
「でも…」
「と言うかなんで結城さんと話しているだけで虐められなきゃいけないの?私も結城さんも、何も悪い事してないのに。クラスの人達って酷いね。」
私がそういうと、茜は目を見開いた。
「そんな事言える人、初めて見た。」
「やった、結城さんの驚いた顔見れたっ!」
私は思わず飛び上がった。
それと同時に茜が笑った。
________これが、私がみた茜の最初の笑顔だった。
「アハハッ、有馬さんって面白い人だね。」
「そ、それって褒められてる?」
「うーん、わかんないや。」
「えええっ」
私が頬を膨らませると、茜はまた笑った。
その笑顔が嬉しくて、私も思わず笑顔になった。
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私達は、驚く程気が合った。
今まで同じクラスだったのが信じられないくらい。
たくさん喋って、たくさん笑った。
気がついたら、最終下校時間。
2人で、仲良く並んで帰った。
「ねぇ、手、繋がない?」
「いいよっ!」
茜の手はすべすべしていて、柔らかくて、温かかった。
手を繋いでるっていう事実が嬉しくて、ギュッと握った。
茜も握り返してくれて。
汗で手が滲んでも気にしなかった。
それくらい、嬉しかったから。
分かれ道に入った時はとても虚しくなってしまって、泣きながら手を振った。
そんな私の事も、茜は笑って、こう言った。
「明日、また、会えるでしょ」と___________
この言葉を信じた私って、馬鹿だったのかな。
_____もう、あの時には戻れない。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。