ーいつも通りのお昼休み。
あの噂が後をたたなくて…
考えないようにしようとしても、
どうしても頭にチラつく
玲二くんの顔が…
今の私には
余計つらくさせる原因にしかならなかった
私のことなのに、
自分のことのように悩んで
悲しんでくれるすず。
すずがいてくれるだけで、
やっていける。
そうだった、玲二くんと出会うまでは。
玲二くんと出会ってから、
私は変わった。
ううん、変えられたんだ。
こんな、一人の男を好きになって。
好き。ってこんなに気持ちよくて、
つらくて悲しい気持ちになるんだって。
初めて知ったよ。
きっと、
君に出会わなかったら気づけてなかった。
だから、
すずだけじゃ足りなくなっちゃったのかな…?
ーただ、あなたの側にいたい。
これは、ただのワガママにしかならないのかな?
気づけば、
頬は涙で濡れてて、
握りしめた拳に
ポツリポツリと止まない涙が落ちてくる。
背中に感じる暖かいすずの手の温もりに、
また涙が止めどなくあふれでてくる。
どうすれば、
この涙は止まってくれるんだろう。
ぬぐってもぬぐっても流れ出る涙に
困り果てていると、
焦ったような、優しい声が耳に響いてきて
そこには久しぶりに見る優くんの姿があった。
そう言って私の頭をポンポンと軽く撫でると
すずはどこかへ走り去っていってしまった。
しーん。と静まり返る教室に
私と優くん二人だけ、
取り残されてしまったかのよう。
そう少しだけおちゃらけて言ってみたけど
優くんは真顔で。
いつもみたいに笑うことなんかなくて。
そんな優しい優くんの言葉にどうしたら
いいのかわからなくて下を俯いた。
ここが静かなせいか、
優くんの声が
少しだけ震えているように聞こえて、
それがなぜか、無性にむなしい気分にさせて。
そして、また、無意識に出てくる涙。
『そんな新しい靴で
長時間歩いてたら痛くなるだろ』
『デートに合うと思う』
気づけば、
こんなにも好きになってしまっている。
優くんは、私には勿体ないくらいの素敵な人。
だけど、
他の誰でも、
玲二くんの代わりなんてなれない。
その言葉に軽く頷くと、
優くんは黙ってただ私の腕を握って
屋上へと向かっていった。
ーガチャっ。
優くんが扉を開けてくれて、
先に屋上へと上がる。
と、優くんは何を思ったのか
私に背を向けた。
"待ってて"
とだけ言い捨て、私は屋上に一人取り残された。
ーーーーー
それからまもなく、
ガチャっ、
という扉をあける音と共に
優くんともう1人…
玲二くんが入ってきた。
玲二くんだと分かった瞬間、
咄嗟にそこから死角になる場所へと
身を隠していた。
少し遠くて、
二人の話し声は聞こえてこない。
ボソボソ、としか。
耳を澄ませても、上手く聞こえてこない。
何を話しているんだろう。
けど、楽しそうじゃないのは確かだ。
ふいに、大きな声で名前を呼ばれ
咄嗟に顔をひょこ、と出せば
玲二くんは目を見開いて驚いた表情をしてみせた。
恐る恐る
ゆっくりと、二人への距離を縮めていく。
優くんのその言葉にまた驚き
私の方へと視線をずらす彼に
なんだか恥ずかしくなって顔をそらした。
だって、泣き顔なんて見せたくないじゃん。
でも、ちょっと期待してたんだよね。
優しい言葉を掛けてくれるって。
心配していてくれる、って。
なのに
彼から発された言葉は
あまりにもかけ離れている言葉だった。
無表情のまま、
真っ直ぐに私を見下ろす彼の瞳は
これまでで一番冷めていた。
つまり、彼の瞳に
これっぽっちも"私"はうつってないんだ。
ただうっとおしい。
ただのクラスメイト。
としか捉えられていない。
勘違いしていたのは、
私の方だったんだ。
あぁ、どうしよう。
やっと止まったのに
またあふれでてきそうになる涙を、
上を向いて必死に堪える。
違うって。
それは間違ってるって。
声を大にして言いたい。
言いたい…のに、言えないよ。
喉の奥がじーんっと、
熱くつっかえたまま。
話すことすらできないでいる。
好きな人に
一番言われたくなかった言葉。
他の人と付き合え、なんて
どうしてそうも平気で言えるの…
どうしてそんなに鈍感なの?
ドSで、頑固で、ナルシストなら
私の気持ちくらい、わかるでしょ?
それだけ言うと、
玲二くんは私たちを置いて行ってしまった。
"賭け"
そうだった。
玲二くんはあくまで、
私のことを賭けて遊んでいただけだったんだ。
私のことなんて、
これっぽっちも頭にないんだ…。
何勘違いしてんだろ…
玲二くんはただ、
お遊びで私に優しくしてくれただけ。
それなのに…バカみたい。
本当に本当にバカだなって。
それでも、止めどなく溢れるこの想いを
秘めることなんてできなくて。
君が…
好きで好きで仕方ない。
今、この場で大声で泣き出したいくらい、
君が好き。
だから。
本当は応援なんかしたくないけど、
君の幸せの為に
君が幸せになるのなら、そうしよう。
だって。
結局私は、どんなあなたでも大好きなんだから。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。