すずにいきなり頭をバシン!と叩かれ
痛い頭を擦りながら叫んだ。
"デート以来、なんか上の空だけど"
なんて心配そうな顔して聞いてくるから。
私は、少しだけ俯いた。
当たってるのかもしれない。
私は確かに、優くんとデートして以来
ボーッと考え事をすることが多い。
別に特に優くんと何かあったわけじゃない。
けど、優くんとデートしたその日、
『優愛ちゃん。
ずっと好きだったんだ。
だから、僕と付き合ってくれないかな』
私は優くんに告白された。
嬉しかった。
嬉しかったはず…なのに。
何か、思ってたのと違ったというか。
優くんとのデートが楽しみで楽しみで
仕方なかったはずなのに、
いざデートしてみると何だか
楽しい!って感じるより先に
"緊張"が体中に湧き出てしまって…
何も考えられなくなってしまった。
小さい頃、助けてくれた優くんとは違う。
大人な優くんにドキドキしてる自分がいた。
それは…
私が優くんのことを心の底から好きだと
思っているから…?
なら何で私は優くんの告白に
すぐに答えることができなかったの?
"私もよしくんといると幸せだもん♪"
って、笑って答えてくれた。
"相手のことを見てドキドキする。"
"一緒にいると楽しくて幸せ。"
それが…恋。
なのだとしたら…
私の今胸に宿るこの気持ちは何なのだろうか。
白王子と一緒にいれて楽しいはずなのに、
素直に喜べなくて…
ドキドキしていたはずなのに、
ふと気づけば…
彼と比べてしまう自分がいた。
それが何より不思議で仕方なかった。
ずっと、ずっと考えてても答えなんか
出てこなかった。
そう呟いたすずに、
無意識に目を彼へと向けた。
優くんの周りにはたくさんの女の子たちがいて、
優くんは嫌な顔せずその女の子たちと
笑顔で話している。
楽しそうだなー。
優くんって誰にでも優しいし、
モテるんだよね。
何だか羨ましくてたまらないよ。
年下なのに、尊敬しちゃうほど。
えっ……?
笑顔で話す優くんを見て尊敬するなー。
楽しそうだなー。
って…。
そのすずの言葉に、
私はブンブンと頭をふった。
全然、そんな気持ちにはならなかった。
楽しそうだって見てて温かい気持ちになった。
ただそれだけ。
すずが指差す方向
そこには黒王子…玲二くんが立っていた。
周りには優くんと同様、
たくさんの女子。
けど優くんとは違って
不機嫌オーラが出てるのが見て分かる。
もうちょっと優しく接すること、
できないの?って思う。
と、同時に。
玲二くんの体に思いっきり抱きついた女子を見て
ズキッて。
ギューッて。
胸が締め付けられてるような感覚に陥った。
思わず、
自分の制服のリボンをギュッと握りしめる。
…嘘だ。
…そんなわけないよ。
私が好きなのは優くんであって…
"頭ではあの人が好きって思ってても、
心の中ではいつの間にかあの人で
いっぱいになる。そういうもんなんだよ"
すずのその言葉が
今の私の心に刺さった。
もしかしたら私は
思い込んでいたのかもしれない。
思い返せば、
わかるはずなのに。
どうしてこうも遠回りをしてしまうんだろう。
今日まで、
自分の本当の気持ちに
気づかないフリをしていたけど
もうやめよう。
明日、ちゃんと気持ちを伝えよう。
それから、ちゃんと謝ろう。
ごめんねって。
ありがとうって。
学校の帰り際、
なぜだか無性に会いたくなってしまった。
…彼に。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。