ー帰り。
いつも通り静かに帰れると思ったのに…
トホホ、と肩を落としながらも
抱きついてくる私の親友・すずを
思いっきり抱きしめ返した。
私とすずは帰る方面が違うから
いつも電車は別々になる。
けど今日はどうやら彼氏に会いに行くらしく…
着いてきてほしい、とのこと。
すずとは高校に入ってすぐ意気投合して、
仲良くなった。
すずはとにかく明るくて一緒にいて楽しい子。
ただ…
ノロケ話が多すぎる!!
すずの彼氏である田中良樹(たなか よしき)
通称・よしくんは、
私の中学の同級生なんだ。
すずに最初聞いた時は耳を疑った。
中学時代、良樹と席が近いこともあり
よくノロケ話を聞いていたから。
あぁ、あの時言ってた彼女は
すずだったのかぁ。
世の中って、案外狭いんだなぁって。
もう、なんか羨ましくて仕方ない。
私に抱きついたまま、
離れようとしないすずは
ニヤニヤしながら私の顔を覗き見てくる。
はぁぁ。と、深い溜息をつき
ようやく私の体から離れたすずは
と、わけのわからないことを呟いた。
何勝手に人のこと賭けてんの!?
しかも、
なんなんだ。
あの二人。
そんな遊びに何か得るものがあるのだろうか。
けど、遊びでも何でも。
優くんの側にいられるのなら
良いかもしれない、って思った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!