後ろから、誰かに抱きしめられている。部屋も暗くて、何も分からない。
電気がついた。
真広くんは悪戯っぽく笑って私の顔を覗き込んでくる。つま先から頭まで、一気に血が上がってきた。
朔也くんが、真広くんを引き離してくれた。
真広くんは何事もなかったかのように、壁を指差した。「満点祝賀会!」と壁に紙が貼られている。
私は、隣にいた朔也くんの手を取る。
朔也くんの頬が少し赤くなる。
嬉しい。自分のことじゃないのに、こんなに嬉しい。どんな言葉でも言い表せない程、嬉しい!
頬が濡れるのが分かった。両目から、とめどなく涙が流れてくる。
涙が止まらない。止め方が分からない。
涙で前が見えない。
真広くんがティッシュで私の涙を拭いてくれる。
朔也くんも指で私の頬の涙を拭ってくれる。
優しく少し掠れた声で耳に囁かれる。
真広くんもかがんで私の耳に口を近づける。
それは恥ずかしすぎて耐えられない!
朔也くんが私の手を優しく握る。
促されて椅子に座る。机の上には、ケーキや焼き菓子がたくさん並べられていた。
朔也くんと真広くんが私を挟むように両隣に座る。
朔也くんは私の前にイチゴのショートケーキを置く。フォークで一口大に切ると私の口に持ってくる。
あーんってやつだよね!?アイドルにあーんなんて……!
口を開けると優しい甘さが口に広がる。
甘いけど、味がはっきりと分からない!
真広くんは私の手を取ると、手のひらを適度な強さで揉んでくれる。
気持ちいい。真広くんの手の温かさも相まって、癒される。
なんだか、とても眠くなってきた。テンション上がって、泣いて、甘いもの食べて、マッサージされて……。
瞼が重くて閉じていく。朔也くんと真広くんが何か言っているけど、分からない。
なんて、言っているの?朔也くん。
朔也くんがわたしのことを好きなんてありえないよ、そんなこと……
****
あれ、私何してたんだっけ?確か、朔也くんと真広くんとケーキ食べてたはず。
私、寝てしまっていたんだ。隣で、真広くんが腕を組んで寝ている。でも、朔也くんはいない。
朔也くんが湯気の立つマグカップを私の前に置く。
好きだ……夢叶
あれは、やっぱり夢だよね。私、変な夢見ちゃった。でも、何だろう。ドキドキするし、朔也くんの顔をまともに見られない。
真広くんも眠そうに目を擦りながら起きる。
一瞬、朔也くんが真広くんを睨みつけた。
忘れてた。頑張ったら、何かするっていう約束だった。
真広くんが満面の笑みを浮かべる。
私といて楽しいデートになるかは不安だけど、約束だったし。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!