視線は真っ直ぐ、姿勢を正して。
告白って、どうやってやればいいんだろうか?インターネットで調べても、自分の気持ちを真っ直ぐに伝えることが効果的とは書いてあったけど……。
もう一回調べてみるか。スマホを取り出してネットを開く。
HoneyKnightのサクヤ、人気女性アイドルMIKAとお忍びデートか!?
って、朔也くんだよね?お忍びデートって、どういうこと?
怖いのに、指で記事を押してしまう。
HoneyKnightのサクヤと人気女性アイドルMIKAが都内の水族館で、お忍びデート!二人は、終始楽しそうに水族館を回っていた。クラゲの展示室では親密そうに顔を近づけて会話をしていた。
この水族館って、私が朔也くんと行ったところだし。それより、MIKAさんって誰だろう?知りたくないけど、それよりも気になってしまう自分がいる。
キラキラとした瞳にぷっくりとした唇。見つめられただけで、同性の私でも照れてしまいそう。こんな、可愛い子が朔也くんとデート。
私、どうしたらいいんだろう?あの告白は嘘だったの?
お腹の辺りが冷たく重くなってくる。何も、考えられない。考えたくない。
ピコーン
このタイミングで連絡がくるなんて。焦る気を抑えながら、メッセージを開く。
「今から、いつもの事務所の部屋に来て欲しい。話したいことがある」
今から!?待って、心の準備が出来てない!話したいことって何?
やだ、やだ、怖い。知りたくない!
冷たくなる指先で、「分かりました」と打つ。これだけを打つのに心拍で胸が潰されそう。
*****
大きく、深呼吸を一回二回と繰り返す。
この扉を開けたら、運命が大きく変わってしまうかもしれないと思うと手が震えてくる。暗証番号を一つ一つ確実に押す。ガチャリと鍵が開く音がした。
声が震えないようにお腹から声を出す。
足を組んでそっぽを向いた朔也くん。
私に向けた言葉に思えない。
切り出した方がいいのかな?いや、そんな感じじゃないし……。
自分の隣の席をトントンと軽く叩く。
言われた通りに隣に座るけど、朔也くんは私のことを見ようとしない。
うっすらと目の下に刻まれた隈と、青白い顔色。
何を話せばいいんだろう。今、切り出すべき?でも、付き合っている訳でもない私が怒る権利はない。
いきなり声を出したためか、声が上ずってしまった。
本当に好きな人?私が、早く答えを出さないで真広くんとデートしたからなの?
やっぱり、ただの女子高校生とアイドルじゃ不釣り合いだから?
冗談?何を言っているの?嫌だ、信じたくない。
バッチーン
手が痛い。朔也くんの頬も、うっすら赤くなっていく。
これでも、私のことを見てくれないの?
その言葉が一瞬にして、私の身体の血の気を下げる。
私、もうここにいられないんだ。心と体がバラバラで部屋を飛び出して、走る。どこに行けばいいのか、どこに行くのか分からない。でも、今は一人で泣きわめきたい気分。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!