第3話

アイドルのゴメンネ投げキッス
4,807
2019/08/05 10:27
3.14159265……一心不乱に円周率をノートの端に書き続ける。
夢叶
夢叶
悪くない。私は、悪くない
そう!いきなり、あんなことされて怒らない人なんていない!
夢叶
夢叶
正当防衛!そう!正当防衛?
いや、暴言吐いたのは過剰防衛か?
先生
久野、おーいどうした?
3.14159265……
いきなり、キスとかひどすぎる!初めてのキスだったのに、酷すぎる!
先生
久野―この問題はー
夢叶
夢叶
私のキス返して!
 やってしまった……
先生
えーと、一度落ち着け
夢叶
夢叶
あ、その、すみません……
クラスメイトの視線が全て集まり、クスクスと笑う声が聞こえる。いつもの私だったら、こんなことないのに。



夢叶
夢叶
はぁー
不覚。全く、授業に集中できなかった。
水木先生に謝って、私には無理だったって言おう。きっと、向こうだって私の顔なんか見たくないだろうし。
?
夢叶ちゃん
びっくっと、体が反応する。私のことを「夢叶ちゃん」と呼ぶのは一人しかいない。嫌な予感がしつつ、振り向く。
夢叶
夢叶
大地さん!
ワゴン車の運転席の窓から、大地さんが顔を出している。
夢叶
夢叶
あの、昨日は、
大地
大地
今、時間ある?
夢叶
夢叶
え、えーと今から水木先生のお見舞いに行こうと思って
大地
大地
なら、それは後にして一緒にライブに来てくれる?
夢叶
夢叶
ライブ?ですか?誰の?
大地
大地
勿論、HoneyKnightのだよ
合わせる顔が無い。私が行っても、迷惑になるだけなのに。
大地
大地
言っておくけど、二人が夢叶ちゃんを連れて来て欲しいって言ってるんだよ
夢叶
夢叶
でも、私お二人に酷いこと言ってしまいました
大地
大地
あれは、あいつらがいけないから。俺は、よくやったと思ってるし。むしろ、夢叶ちゃんの味方だよ
ワゴン車のドアが開く。
大地
大地
もう、顔を見たくもないかもしれない。すごく、我儘なお願いで申し訳ないとも思っている。でも、一度だけあいつらの本気を見て欲しい
ここで、逃げたら私は自分の発言に責任を持てない人間になってしまう。私は、二人の本気を見る責任があるのかも……
夢叶
夢叶
私、ライブ初めてですが大丈夫ですか?
大地さんの白い歯がにっこりと見える。
大地
大地
乗って!
ワゴン車に乗り込み、扉が閉まる。
大地
大地
それで、申し訳ないんだけど制服はまずいからそこにあるのに着替えてくれる?
夢叶
夢叶
これって……
後部座席に置いてあった箱を開けると、総レースの白いワンピースと白いパンプスが入っていた。
大地
大地
二人から夢叶ちゃんにって。あまり、好みじゃなかった?
車が動き始める。
夢叶
夢叶
いえ……私、こんな素敵な洋服着たことないです。ありがとうございます!
大地
大地
良かった。それでもう一つ、申し訳ないんだど
夢叶
夢叶
なんですか?
大地
大地
宿題のワーク、あいつら徹夜でやったらしいんだ。採点してあげて欲しい
水に濡れて少しヨレヨレになっているワークが置いてあることに気付く。
夢叶
夢叶
一晩でこんなに……
なんだろう。胸のあたりが温かくなってくる。



大地さんに連れられて会場に入る。
夢叶
夢叶
すごい人の数……
一箇所に人がこんなにいるのを初めて見た。それも、女性ばかり。みんな、水色とピンク色の服を着ているという不思議な光景だ。真っ白な自分がとても浮いているように感じる。

でも、みんなすごく楽しそう。
夢叶
夢叶
酸素が足りなくなりそう。酸素マスクを用意しておけば良かった
大地
大地
夢叶ちゃん、これ付けておいてね
『オールエリアフリーパス』と書かれたカードを首から提げられる。
大地
大地
これ、お守りね。絶対に外しちゃだめだよ
大地さんに腕を引かれて奥に進んで行く。下の会場よりも、お客さんが少なくなる。ピンクと水色が視界から消える。
大地
大地
ここ、関係者席。招待された芸能人とか、記者とか、レコード会社の人とかの席なんだ。堂々としていれば大丈夫だから
スーツ姿の人や、マスクをしている人。雰囲気が全然違う。
大地
大地
ここに座って。ごめんね、一緒にいられなくて。あとで、迎えに来るから
夢叶
夢叶
大丈夫です。大人しくしておきます!
大地
大地
本当、ごめんね!
大地さんが私に手を合わせて、謝りながら行ってしまう。


ドキドキする。これから、どんなことが始まるのだろう?と、ワクワクしている自分に驚く。
女性芸能人
女性芸能人
やっぱり、今はHoneyKnightが人気ね
男性芸能人
男性芸能人
どうせ、顔だけアイドルだろ?
聞くつもりはなかったけど、なんだか少しムカつく。
会場の照明が消えて真っ暗になる。だけど、完全な暗闇にはならない。ピンクの光と水色の光が星のように輝いている。
夢叶
夢叶
綺麗……
きゃあー!サクヤくーん!マヒロくーん!
下の観客席から、悲鳴のような女性達の歓声が会場に響き渡る。

バーンッ!
舞台の下から白い火の柱が上がり、消えた瞬間きらびやかな衣装を着たHoneyKnightの二人が現れる。

水色の衣装の藤くんとピンク色の衣装の八坂くん。


なるほど。水色とピンクの服を着た女性しかいない謎が解けた。
会場が割れるんじゃないのかというぐらいの歓声が上がる。耳がおかしくなりそう。
曲が爆音で流れてくる。この曲、確かスポーツドリンクのCMの曲だ。この曲、二人が歌っていたんだ。
真剣な顔で踊る二人。昨日の最低な二人と、同一人物だとは思えない。
彼らの動きから目を離せなくて、ターンして振り返る顏、笑顔で観客に手を振る笑顔、全てに惹きつけられる。
サビの前、盛り上がりが最高潮になり二人が指先で投げキスをお客さんに向かってする。失神してしまうのではないかというぐらい、女性達が悲鳴をあげる。
私、こんなすごい人とキスしたんだ……
唇が少し熱くなってきて、心臓がおかしくなりそう。

君のことが頭から離れない
酷いキスしてごめんね
ただ、君に好きになって貰いたかっただけ
可愛い僕らのMySweetTeacher

二人が私を見つめている?
一瞬、会場がざわめく。それでも、二人は気にしないで歌い続ける。
女性芸能人
女性芸能人
あれ?ここって、MySweetHoneyじゃなかったけ?
夢叶
夢叶
えっ、もしかして……
私の為に歌詞変えて、歌ってくれたの?そんなことあり得るの……?

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