前の話
一覧へ
次の話

第24話

アイドルと恋の方程式
1,916
2020/04/14 10:41
 ——どういう状況なの。
夢叶
夢叶
朔也くん、真広くん……
本来いるはずのない二人。
朔也
朔也
どういうことだよ
真広
真広
大地さんが仕組んだの?
大地
大地
い、いや!俺は何も……って、おまえか!太陽!
水木先生
水木先生
仕組んだわけではない。久野が来たのは、本当にたまたま。でも、いいだろう?この機会にお互いにしっかり話し合った方がいい
朔也
朔也
話し合うことなんて何もない
私のことを見ないで吐き捨てるように言う朔也くん。
夢叶
夢叶
私のため……だったんですか
朔也
朔也
は?
夢叶
夢叶
好きな人が出来たって言うのも、二度と会わないって言ったのも、私を守るためだったんですか
朔也くんが舌打ちをする。
朔也
朔也
太陽先生、あんたが教えたのかよ
水木先生
水木先生
可愛い俺の生徒が、こんなに苦しんで悲しんでいるんだ。それに、さっき記者の男が久野に無理矢理取材をしようとした
真広
真広
な、なんで……隠しきれてないじゃん!
大地さんが呆れた様にため息を吐く。
大地
大地
一時間。それぐらいなら、俺が都合付けられる最大の時間だ
真広
真広
夢叶っち、いい?
夢叶
夢叶
ありがとうございます。お願いします

*****

机を挟んで私の目の前に、二人が並んで座る。
やっぱり、私のことを朔也くんは一切見ようとしない。私は、我儘になってしまったのかもしれない。会えただけで、嬉しいのに彼の瞳に自分が映っていないと思うだけで、こんなに胸が痛い。
夢叶
夢叶
先程、私が聞いたのは本当のことですか朔也くん?
朔也
朔也
……本当のことだったらなんだよ。もう、おまえも分かっただろ?俺達と関わるとロクな目に遭わないってこと
私を守ってくれるためだった。私のためだった。でも、悔しい。私は守られているだけで、二人の重荷になっているのが。
真広
真広
でも、僕は夢叶っちを傷つけたことはどんな理由があっても許せない
朔也
朔也
じゃあ、全部包み隠さず話せばよかったのかよ。知ったこいつは、どうなるんだよ?誰よりも優しくて責任感が強いから、きっと知ったら、苦しむ。どうにかしようとする。俺は、そんな風に苦しんだこいつを見れない
そんなこと言っても、朔也くんも一緒だよ。苦しんでいるじゃない。
朔也
朔也
おまえは、俺のことを最低な男だって切り捨ててくれればよかったんだ!なのに、どうして……
夢叶
夢叶
そんなこと出来るわけないじゃないですか!
溢れる。悲しみが、愛しさが。朔也くんへの想いが言葉となって溢れてくる。
夢叶
夢叶
分かっていますよ!私は何も出来ない!でも、でも……話して欲しかった。もし、あれが会うのが最後だったとしてもあんな別れ方はしたくないです!辛いのも、苦しいのも朔也くんのことを好きと想う気持ちに比べたらなんともありません!
時計の秒針が動く音が、こんな音なんて初めて知った。秒針よりも心臓が早く鼓動を打つ。
真広
真広
……ねえ、これって僕にとって負け戦なんだけど
夢叶
夢叶
へ?
真広
真広
朔也も、女の子がここまで言っているのに、黙ったままなの?
夢叶
夢叶
あ、の……その、ごめんなさい!私、また言い過ぎて、
真広
真広
そんなことない。夢叶っちは、もっと自分に自信を持ってよね。この僕がこんなに好きになった子なんだから
夢叶
夢叶
ごめんなさい!あ、えーと、違くて、ありがとうございます
真広くんが満足そうに笑みを浮かべる。
真広
真広
じゃあ、ここからは二人で話し合った方がいいよね
朔也
朔也
あ、おい!何すんだよ!
真広くんが朔也くんを引きずるように、私の隣に座らせる。
真広
真広
じゃあ、またね
夢叶
夢叶
あ、真広くん!
真広くんは振り返らずに、生徒指導室を出て行ってしまった。

*****
朔也
朔也
怪我、大丈夫なのかよ
夢叶
夢叶
え、ええ。大丈夫です。左足の骨折と、右腕はヒビだけで済んだので
朔也
朔也
全く、大丈夫じゃないだろそれ
夢叶
夢叶
大丈夫ですよ!歩けるし、元気ですし!
朔也くんが、クスクスと笑い出す。
朔也
朔也
そうだな。元気そうで良かった
久しぶりに、朔也くんの笑顔を見れた。
やっぱり私、朔也くんが好きだ。
夢叶
夢叶
朔也くん、この間は酷いことしてごめんなさい。何も知らなかったとはいえ、私……本当にごめんなさい!
朔也
朔也
いや、いいんだ。まあ、女の子に本気のビンタをされるのは初めてだったけど
返す言葉もない。
朔也
朔也
……でも、あれで俺のこと嫌いになれたか
私は首を横に振る。
朔也
朔也
怖い思いも、嫌な思いも沢山しただろ。それに、俺はおまえが思うほど良い奴じゃない。人によって態度も変えるし、口も悪いし、雑ってよく言われる。それに、頭だって良くない
夢叶
夢叶
態度を変えるのは、仕事だからですよね。口が悪いのも、少し雑なのも慣れました。それに、少し意地悪で不器用なところにも慣れました
朔也
朔也
不器用で意地悪で悪かったな
夢叶
夢叶
いや、悪いとかじゃなくて。そういうところも含めて、その……好きです
朔也
朔也
やめろよ。諦めきれなくなる
夢叶
夢叶
私にとって、初めての恋なんです。諦めようと思いました。でも、この気持ちの捨て方が分からなかった。こんなにも、人を好きになることが苦しいことだとは思いませんでした
朔也
朔也
俺も初めてだ。離したくない、誰にも渡したくないと思った。俺だって、初恋だよ
なんで、泣きそうになるんだろう。
夢叶
夢叶
好きです。大好きです。朔也くん
ふわっと朔也くんに優しく抱き締められる。
朔也
朔也
ごめん。こんなことをするべきじゃないってわかっているけど……
左手で私も、朔也くんの背中に腕を回す。
朔也
朔也
俺も、夢叶が好きだ。どこにも、誰にも渡したくない
嬉しい。愛おしい。こんなにも、人想うことが自分に出来るとは思わなかった。
朔也
朔也
でも、ごめん。俺は、アイドルを辞めることは出来ない。今度の恋愛映画で、他の人とキスもする。それでも、夢叶は俺を好きでいてくれるか?
夢叶
夢叶
はい
朔也
朔也
堂々とデートとか、普通の恋人みたいに出来なくても好きでいてくれるか?
夢叶
夢叶
はい。ずっと、好きでいますよ
朔也くんがそっと、私を離す。
真っ直ぐに私を見つめる。
朔也
朔也
俺と付き合って下さい
夢叶
夢叶
はい。よろしくお願いします
ゆっくりと、朔也くんの顔が近付いてくる。
そして、唇に柔らかな感触。
朔也
朔也
泣くなよ
夢叶
夢叶
泣きたい訳じゃないけど、涙が出てくるんです。だって、すごく今幸せだから
朔也
朔也
馬鹿だな。もっと、これから沢山幸せになるんだ
朔也くんは、いつものように少し雑だけど優しく私の頭を撫でる。
この恋が、正しいのか私にはわからない。
でも、恋に正解なんてない。教科書も教えてくれる先生もいない。
だって、恋はイレギュラーで方程式に当てはまらないものだから。
ただ、そこにある解答は一つだけ。
夢叶
夢叶
好きです

プリ小説オーディオドラマ