日曜日。
私は彼らに勉強を教えるために、事務所が用意してくれたいつもの部屋に来ていた。
この部屋、最近ではHoney拷問部屋なんて呼ばれているらしい。
拷問とか一体何のための部屋だ。
ラジオから彼らの曲が聴こえてくる。
家庭教師の先生って――えー私?
真広くん……そんなに厳しいかな?
え、ちょっと待って!心の準備が!
どうしよう……嬉しくて泣きそう。
最高の先生……私はただ本当に勉強を教えているだけなのに。
嬉しさもあり、気恥ずかしさとか色んな感情で涙が出て来る。
こんなに、感動して泣いたの小学校の時の「ごんきつね」の授業以来だ。
ぐすん。
ラジオからじゃない!
声の方を振り返ると、サングラスと帽子で変装した朔也くんと帽子を被った真広くんが立っていた。
そういうことか。ビックリした。というか、恥ずかしい……。
朔也くんがワシャワシャと頭を撫でてくる。ちょっと、雑なんだよね。
真広くんは涙を指先で拭ってくれる。真広くん、普段は意地悪なことしてくるけど、こういう時は優しいんだよね。
ん?褒められたの?けなされたの?
ダサいといっても、白いシャツに赤いロングスカートなんだけど。普通だと思うんですけど!まあ、確かに二人はおしゃれだから私の服装がダサく見えるのはしょうがないけど。
黒いジャケットに、黒いTシャツ、黒いズボン、と黒一色で統一された服装の朔也くん。
赤紫色のシャツに灰色のボリュームがあるズボンに革靴を履くハイセンスな真広くん。
朔也くんと真広くんが私の両脇を抱えてくる。まるで、未確認生物の捕獲みたい。
引きずられるように、部屋から連れ出される。私、どこに連れて行かれるの!
大地さんが運転する、ワゴン車に乗せられてどこかに連れて行かれる。
朔也くんの圧がすごい。
車が停まる。
駅から少し離れた場所にあるおしゃれなブティックだった。
朔也くんが不意に、私の右手を掴んでくる。
手を握られただけで、恥ずかしくなっているのバレたらまた、からかわれる!平常心!平常心よ、夢叶!
店の奥から、緑色の髪のおかっぱに全身デニムの格好の細身で長身の男の人が出てきた。
タナカさんがニヤリと笑みを浮かべて、私に顔を近づける。
ジーっと、見つめたまま何も言ってくれない。ちょっと、怖いんだけど。
事務所で噂になってるの!?
タナカさんはいきなり、私の眼鏡を取る。
朔也くんと真広くんに穴が空きそうなぐらい見つめられる。
二人が私に手を差し出してくる。
どういうつもり?え、どうすればいいの?
あ、アイドルのサクヤくんの笑顔だ。
真広くんが私の手を取ると、手の甲に優しくキスをする。
私の思考が停止した。あれ?私の目の前にいるのは王子様?
タナカさんの楽しそうな声が遠くに聞こえてくる。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。