第2話

アイドルにキスされて好きになんか……
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2019/07/29 05:27
大地
大地
マジで、HoneyKnightを知らないの?添い寝して欲しい男1位のサクヤと
朔也
朔也
ちょっと、恥ずかしいですよ大地さん
大地
大地
おかえりを言って欲しい男1位のマヒロだよ?
真広
真広
おかえり
ニコっと、効果音が出そうな笑みを浮かべる。
というか、なんだそのランキング……。
朔也
朔也
大地さん、彼女を責めないで下さい。俺達がまだまだってことですよ
サラサラの黒髪に端正な顔立ち。絵本の中の王子様が現実に現れたみたい。柔らかに微笑んでくる少年。と、柔らかそうな茶色い髪に少し色っぽさのある瞳。私を品定めするように見つめてくる少年。
夢叶
夢叶
すみません。ニュースしか見ないので……
壁の宣材ポスターが目に入る。「人気絶頂アイドルユニットHoneyKnight」
「国民的王子様のサクヤと可愛いみんなの弟マヒロが日本の女性の恋人になる!」と書かれている。この二人は本当に、人気アイドルなんだ。
真広
真広
というか、その子誰なの?太陽先生は?
大地
大地
そのことなんだけど、太陽は入院したので、今日からこちらの成績優秀万能天才少女の久野夢叶ちゃんが先生です
大地さんに二人の前に押し出される。
夢叶
夢叶
久野夢叶です……よろしくお願いします
朔也
朔也
俺は、藤朔也フジサクヤ。よろしく、先生
先生……先生!すごく、魅力的な響き。
手を差し出されたので、握ると両手で握り返される。少し、温かい。
真広
真広
僕は、八坂真広ヤサカマヒロ。よろしくね、夢叶っち
夢叶っち……まあいいっか。八坂くんからも、手を差し出されたので握り返す。
夢叶
夢叶
えっ
手を引かれて軽く抱き締められ、フルーツのように甘い香りに包まれる。
真広
真広
よろしくのハグね
え……
夢叶
夢叶
な、何するんですか!いきなりこんなハ、ハグなんて
心臓が胸骨を飛び出してきそうなほど、ドキドキしている。でも、初対面でハグをしてくるなんて……おかしいよね!?
突き放そうと、胸を押しのけるがビクともしない。
真広
真広
何?照れているの?可愛い
夢叶
夢叶
可愛くないです!いいから、離してください
えーっと言いながらも、私の反応を見て笑っている。私も負けずに八坂くんを睨みつけるとやっと離してくれた。八坂くんの突然のボディータッチには気を付けないと。
夢叶
夢叶
えーと、何だっけ……そう、勉強!勉強しましょう
大地
大地
夢叶ちゃんを困らせるなよ。ごめんね、あとは任せた!
夢叶
夢叶
ちょ、ちょっと待ってください!
私の言葉を聞かずに、出て行ってしまった。
朔也
朔也
まあ、緊張しないで先生
真広
真広
おいで。おやつもあるんだ
両側から二人に手を引かれる。昔、絵本で読んだ王子様みたい。って、馬鹿。絵本の王子様なんているはずないでしょ!
 


椅子に座った私の両側に、肩が触れそうなほど近くに二人が座る。
夢叶
夢叶
少し、近過ぎませんか?離れてもらえます?
朔也
朔也
……
真広
真広
……
一瞬、二人の目が冷たく感じた。けど、気のせいだったのかな?
真広
真広
えーどうして?いいじゃん
二人の顔は、変わらず笑顔だ。
夢叶
夢叶
良くないです。人の間には適正な距離感というものがあります
朔也
朔也
ごめん、君が可愛すぎて
こんな言葉に騙されない。
夢叶
夢叶
そういうのいいですから、水木先生からの宿題を見せて下さい
朔也
朔也
緊張しているの?ねえ、夢叶だっけ? 彼氏いるの?
藤くんが自然な感じで、私の肩にそっと手を回してくる。
夢叶
夢叶
いません。宿題を見せて下さい
私は、そっと肩の手をどかす。
真広
真広
えーいないの?じゃあ、今まではいたの?
夢叶
夢叶
いませんし、興味がありません。それより、宿題を見せて下さい!
二人は面倒くさそうに、机の上へ「中学三年間完全復習版」を出す。
グッと藤くんの顔が私に近づき、耳に吐息が掛かる。
夢叶
夢叶
きゃあっ!
朔也
朔也
俺のお姫様にしてあげようか?
夢叶
夢叶
え、遠慮させてもらいます!
真広
真広
あ、もしかして僕の方が好み?僕のお姫様になる?
これは、私がからかわれている?
夢叶
夢叶
結構です!
私は藤くんのワークを手に取り開く。あれ?白紙?分からなかったってこと?
夢叶
夢叶
難しかったですか?大丈夫ですよ、一緒にやっていきましょう
気を取り直して、八坂くんのワークを開く。良かった。白紙ではない……けど、けど!
夢叶
夢叶
可愛いイラストですね……
問題文や余白にびっしり落書きがされている。
真広
真広
ふーん。別に、無理して褒めなくてもいいよ
なんだか、素っ気ない言い方をしてくる。私、怒らせること言った?
夢叶
夢叶
えーと、まず分からない問題があっても埋めて下さい。少しでも、考えるということが大切です。とにかく、埋めるということを意識して下さい
藤くんの手が私の髪に触れる。
朔也
朔也
俺たち、毎日忙しくて勉強なんかしてる暇ないんだ。これ、ノルマなんだけど君やってくれる?
八坂くんが私の手を握ってくる。
真広
真広
ね?お願い!君だけが頼りなの
必死過ぎない?なに、どういうこと?
夢叶
夢叶
私も手伝うので、一緒にやりましょう
二人の手を軽く払う。ここで、私が負けたら二人のためにならない。
朔也
朔也
はーあ。なんだよ。優しくしてやったのに
夢叶
夢叶
え?
真広
真広
勉強なんて、やって何になるの?
八坂くんが大きな溜息を吐く。先程までの、キラキラ接待は何だったんだ!?
夢叶
夢叶
自分のためにやるものです。それに、私がやったら二人のためになりません
朔也
朔也
あんたさぁーだから、彼氏できねーんだよ
夢叶
夢叶
はぁ?それとこれに何の関係があるんですか!?
朔也
朔也
だから、普通こんなにされたら嬉しい!とか、好き!とか、思うだろ?枯れてんのか?
夢叶
夢叶
な、他の人と一緒にしないで下さい!第一、私は勉強を教えに来たんです!こんな失礼なこと言われるために来たんじゃありません!
朔也
朔也
じゃあ……
藤くんは私の後頭部に手を添えると、自分の方に引き寄せる。気付いた時にはもう、唇に柔らかな感触があった。
私キスしてる……?キスしてる!?
真広
真広
わー朔也ったら、大胆
キス!?えええええええっ!
キスってあのキスだよね?落ち着いて、私。整理しよう。
【キス】:接吻、あるいは口づけ。唇を相手の頬・唇などを接触させ、親愛・友情・愛情を示すこと。
初めてなのに……
朔也
朔也
これでどうだ?俺のこと好きになっただろ?ガリ勉眼鏡
乱暴で横暴な言い方。こんな、やり方で好きになると思っているの?
夢叶
夢叶
ス、好きになんかなる訳無いでしょ!?
藤くんを押しのけて、二人から距離をとる。頭の血が一気に昇ってくる。
夢叶
夢叶
馬鹿にしないでよ!いきなりこんな……
近くにあった、花瓶の花を引っこ抜くと腕に抱える。

バシャッ!

夢叶
夢叶
最低よ!
夢叶
夢叶
あなた達みたいな中途半端な人間に、私を馬鹿にする権利はないわ!
本当に最低。ありえない、こんな屈辱初めて。
水を掛けられて呆然とする二人に私は止まらず、
夢叶
夢叶
誰が、誰がねえ、うゔっ、もう!
花瓶を二人の前に置いて、荷物を持って部屋から走って出て行く。
最悪!最悪よ、こんなのが初めてのキスなんて!


朔也
朔也
なんだよ……あの女。やるじゃねーかよ……
真広
真広
夢叶ね~?なんか、興味出てきちゃったかも。面白くなりそう

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