ニコっと、効果音が出そうな笑みを浮かべる。
というか、なんだそのランキング……。
サラサラの黒髪に端正な顔立ち。絵本の中の王子様が現実に現れたみたい。柔らかに微笑んでくる少年。と、柔らかそうな茶色い髪に少し色っぽさのある瞳。私を品定めするように見つめてくる少年。
壁の宣材ポスターが目に入る。「人気絶頂アイドルユニットHoneyKnight」
「国民的王子様のサクヤと可愛いみんなの弟マヒロが日本の女性の恋人になる!」と書かれている。この二人は本当に、人気アイドルなんだ。
大地さんに二人の前に押し出される。
先生……先生!すごく、魅力的な響き。
手を差し出されたので、握ると両手で握り返される。少し、温かい。
夢叶っち……まあいいっか。八坂くんからも、手を差し出されたので握り返す。
手を引かれて軽く抱き締められ、フルーツのように甘い香りに包まれる。
え……
心臓が胸骨を飛び出してきそうなほど、ドキドキしている。でも、初対面でハグをしてくるなんて……おかしいよね!?
突き放そうと、胸を押しのけるがビクともしない。
えーっと言いながらも、私の反応を見て笑っている。私も負けずに八坂くんを睨みつけるとやっと離してくれた。八坂くんの突然のボディータッチには気を付けないと。
私の言葉を聞かずに、出て行ってしまった。
両側から二人に手を引かれる。昔、絵本で読んだ王子様みたい。って、馬鹿。絵本の王子様なんているはずないでしょ!
椅子に座った私の両側に、肩が触れそうなほど近くに二人が座る。
一瞬、二人の目が冷たく感じた。けど、気のせいだったのかな?
二人の顔は、変わらず笑顔だ。
こんな言葉に騙されない。
藤くんが自然な感じで、私の肩にそっと手を回してくる。
私は、そっと肩の手をどかす。
二人は面倒くさそうに、机の上へ「中学三年間完全復習版」を出す。
グッと藤くんの顔が私に近づき、耳に吐息が掛かる。
これは、私がからかわれている?
私は藤くんのワークを手に取り開く。あれ?白紙?分からなかったってこと?
気を取り直して、八坂くんのワークを開く。良かった。白紙ではない……けど、けど!
問題文や余白にびっしり落書きがされている。
なんだか、素っ気ない言い方をしてくる。私、怒らせること言った?
藤くんの手が私の髪に触れる。
八坂くんが私の手を握ってくる。
必死過ぎない?なに、どういうこと?
二人の手を軽く払う。ここで、私が負けたら二人のためにならない。
八坂くんが大きな溜息を吐く。先程までの、キラキラ接待は何だったんだ!?
藤くんは私の後頭部に手を添えると、自分の方に引き寄せる。気付いた時にはもう、唇に柔らかな感触があった。
私キスしてる……?キスしてる!?
キス!?えええええええっ!
キスってあのキスだよね?落ち着いて、私。整理しよう。
【キス】:接吻、あるいは口づけ。唇を相手の頬・唇などを接触させ、親愛・友情・愛情を示すこと。
初めてなのに……
乱暴で横暴な言い方。こんな、やり方で好きになると思っているの?
藤くんを押しのけて、二人から距離をとる。頭の血が一気に昇ってくる。
近くにあった、花瓶の花を引っこ抜くと腕に抱える。
バシャッ!
本当に最低。ありえない、こんな屈辱初めて。
水を掛けられて呆然とする二人に私は止まらず、
花瓶を二人の前に置いて、荷物を持って部屋から走って出て行く。
最悪!最悪よ、こんなのが初めてのキスなんて!
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。