松葉杖が手離せないけど、思ったより早く退院出来て良かった。
男の子達?思い当たるのは、あの二人だけど。でも、私の病室で喧嘩してから水木先生に出入り禁止にされて、来てないはず。それに、朔也くんは二度と来ないって言っていた。
二人とも、私を気にして病室に入らなかったのかな。状況は分かっている。でも、少し寂しいと思ってしまうのはいけないことなのかな。
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私が入院している間に、高校は夏休みに入ってしまった。夏休みの課題は、水木先生が持って来てくれたけどその他の教材は置いたままだった。
ジリジリと背中に日差しを感じながら、ゆっくりと学校へと歩みを進める。
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久しぶりの高校。去年は、運動部とかの活気のある声が聞こえたけど今日は静まりかえっている。
スマホをこちらに向けている男性が背後に立っていた。異様な光景に、思わず身を構えてしまう。
誰?何で、私の名前を知っているの?
男性はニヤリと口元に笑みを浮かべて、私に名刺を見せてくる。
動揺しているところを見せては駄目。自然と奥歯に力が入る。
早く、この場を去らないと。
やっぱり、朔也くんと真広くんのことだ。迷惑かけられない。
なんで……これを……
記者の人が私に一枚の写真を見せてくる。
私と朔也くんが水族館のデートをしている様子の写真。
どうしよう。なんにも、言葉が思いつかない。
暑いはずなのに、指先が冷たくなってくる。
必死に松葉杖を突きながら、学校に逃げようとするが記者の人が、私の目の前に立ちはだかる。
二人に迷惑をかけてしまう。でも、私が変なことを話したらもっと迷惑をかけてしまうことになる!
記者の人が意味深な笑みを浮かべながら、去って行った。
貧血を起こしたかのように、フラっと体から力が抜ける。
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水木先生に抱えられながら、保健室に運ばれた。暑かったせいか、気分も少し悪くなってきた。
水木先生が苦虫を噛み潰したような表情になる。
自分の知らないことで、大変なことが起きていた。私が、ぐずぐずと悩んでいる間に。
知らなかったとしても、許されないことをしてしまった。
水木先生が、深い溜息を吐く。
水木先生は、私を支えながら保健室を出る。
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連れて来られたのは、特別指導室。
取っ組み合いをしている、朔也くんと真広くんを大地さんが引き離そうとする。
3人が一斉にこちらを見る。
朔也くん、真広くん……
どうしよう、不思議なほどに泣きそう。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。