まだ、頬が熱い。エンドロールが流れていくのをただ見つめるだけなのに、胸が強くドクンドクンと高鳴る。
カップルシート……怖い。
フッと朔也くんが微笑む。
手?手―!!!
朔也くんが私の手をぎゅっと握る。私、おかしくなったのかも。手に心臓があるみたいに、脈打っている。
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朔也くんに手を引かれて、水族館の奥に進んで行く。
背中に汗がジワリと出てきた。バレないで……!というか、意識しているのは私だけ?
上手く、言葉が出てこない。
朔也くんの目ってこんなに綺麗だったけ?いやいや、違うって私は何を考えているんだ!
私、なんでいきなり水草の生態系を話しているの!?
褒められたー!!!
繋いでいた手がスルっと抜ける。
うん?なんで、悲しい顔?朔也くんは、自分の左手を見つめている。
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色とりどりのサンゴ礁が展示された水槽。絵画のように完璧な世界がそこにある。
私のことを、ぼーっと見つめている。やってしまった……こんな、話つまらないよね。
反応が無い。つまらな過ぎて、魂が抜けてしまったかも!?
目の前で手を振ってみる。
朔也くん、目が泳いでいるし身振り手振りが大きい。私のこと気を使って誤魔化してくれているのかな。
なんでだろう。いつもより、気まずい。二人だけだから?
朔也くんが私の右手を握る。さっきとは、握り方が違う。直ぐには離れられないように、指を絡められる。
握られた手に少し力をこめられる。体が熱い。自分の体なのに、関節が固まってブリキ人形みたい。
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色とりどりのライトで照らされたクラゲが水槽の中を漂っている。
ふわっと、背中に体温を感じる。私を後ろから覆うように、お腹に腕を回されて抱き締められた。
こんな、公共の場所でこんな大胆なことをするなんて——って、誰もいない。
恋人!?何を言っているの?私と恋人なんて……また、私をからかっているの?
胸がギュっと痛い。悲しい、苦しい、嬉しい?
声が低くなる。
怒ってる?なんで、なんで怒るの?水槽に映る朔也くんと目が合う。
聞きたいけど聞きたくない。
何を言っているの……?
時間が止まったような感覚になる。目の前のクラゲの動きが止まった様に見える。
なんて、重い言葉なんだろう。好きという言葉がこんなにも苦しくなるものだとは思わな
かった。
私を抱き締めている腕の力が強くなってくる。
私、朔也くんのこと好きかもしれない。でも、これって……
首元に朔也くんの吐息が当たる。
泣き出したいほど胸が熱い。苦しい、苦しいよ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。