第16話

アイドルとアイドルではない彼
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2019/12/08 10:10
まだ、頬が熱い。エンドロールが流れていくのをただ見つめるだけなのに、胸が強くドクンドクンと高鳴る。
朔也
朔也
おい、終わったぞ
カップルシート……怖い。
朔也
朔也
どうしたんだよ。行くぞ
夢叶
夢叶
え、あ、はい!
フッと朔也くんが微笑む。
朔也
朔也
ほら、手
手?手―!!!
夢叶
夢叶
あうーあ、えーと
朔也
朔也
本当に、しょうがない奴だな
朔也くんが私の手をぎゅっと握る。私、おかしくなったのかも。手に心臓があるみたいに、脈打っている。
夢叶
夢叶
あの、これからどうするんですか?
朔也
朔也
俺の、お気に入りの所に連れって行ってやるよ
****
夢叶
夢叶
水族館?
朔也
朔也
ここ、よく来るんだ。練習終わりとか、ライブの後に一人で
 朔也くんに手を引かれて、水族館の奥に進んで行く。
背中に汗がジワリと出てきた。バレないで……!というか、意識しているのは私だけ?
夢叶
夢叶
あ、あの朔也くん?
朔也
朔也
うん?何?
上手く、言葉が出てこない。
夢叶
夢叶
え、っとその……
朔也くんの目ってこんなに綺麗だったけ?いやいや、違うって私は何を考えているんだ!
朔也
朔也
どうした?顔が赤いぞ?
夢叶
夢叶
き、気のせいです!あ、その水草には四つの生態系があるのを知っていますか!?
朔也
朔也
へ?いや、知らない
私、なんでいきなり水草の生態系を話しているの!?
夢叶
夢叶
抽水植物チュウスイ浮遊植物フヨウ、浮く葉と書いて浮葉植物フヨウ沈水植物チンスイというのがありまして水草は魚達の隠れ家や産卵場所になっているんです。そのため魚達の命のゆりかごと呼ばれているんですよ
朔也
朔也
へ、へーおまえは、勉強以外も色々知っているんだな
褒められたー!!!
夢叶
夢叶
あ、サンゴ礁の水槽もありますね!
繋いでいた手がスルっと抜ける。
朔也
朔也
あ……
うん?なんで、悲しい顔?朔也くんは、自分の左手を見つめている。
夢叶
夢叶
どうかしましたか?
朔也
朔也
いや、その……なんでもない
夢叶
夢叶
そうですか?早く、行きましょう?
****
色とりどりのサンゴ礁が展示された水槽。絵画のように完璧な世界がそこにある。
夢叶
夢叶
水草は命のゆりかごでしたが、サンゴは海のゆりかごって呼ばれているんですよ
朔也
朔也
……
夢叶
夢叶
昼のサンゴは光合成をして植物のように生きて、夜は動物のように他の生物を食べるんですよ
朔也
朔也
……
私のことを、ぼーっと見つめている。やってしまった……こんな、話つまらないよね。
夢叶
夢叶
あの、朔也くん?
反応が無い。つまらな過ぎて、魂が抜けてしまったかも!?
夢叶
夢叶
もしもし。朔也くん?あのー
目の前で手を振ってみる。
朔也
朔也
え、うわっ!なんだよ!?
夢叶
夢叶
ごめんなさい。つまらない話をしてしまったので
朔也
朔也
つまらない話?そんなわけないだろ!面白かったし、めっちゃ勉強になった!
夢叶
夢叶
え?それなら良かったです
朔也くん、目が泳いでいるし身振り手振りが大きい。私のこと気を使って誤魔化してくれているのかな。
朔也
朔也
あーうん。その、次行こう!
なんでだろう。いつもより、気まずい。二人だけだから?
夢叶
夢叶
あ、
朔也くんが私の右手を握る。さっきとは、握り方が違う。直ぐには離れられないように、指を絡められる。
朔也
朔也
繋いでいたい。だめか?
夢叶
夢叶
ダメ……じゃないです
握られた手に少し力をこめられる。体が熱い。自分の体なのに、関節が固まってブリキ人形みたい。
****
夢叶
夢叶
綺麗
色とりどりのライトで照らされたクラゲが水槽の中を漂っている。
朔也
朔也
俺が一番好きな水槽。なんか、ずっと見ていられるんだよね
夢叶
夢叶
確かにずっと見てしまいますね
朔也
朔也
うん。ずっと、見ていたい
ふわっと、背中に体温を感じる。私を後ろから覆うように、お腹に腕を回されて抱き締められた。
夢叶
夢叶
さ、朔也くん!?
こんな、公共の場所でこんな大胆なことをするなんて——って、誰もいない。
朔也
朔也
こうしていると、本当の恋人みたいだな
恋人!?何を言っているの?私と恋人なんて……また、私をからかっているの?
胸がギュっと痛い。悲しい、苦しい、嬉しい?
夢叶
夢叶
こ、恋人に見えますか?そうなると、男女でいれば恋人に見えるという定義になりますね!
朔也
朔也
それは本気で言っている?
声が低くなる。
夢叶
夢叶
え?
怒ってる?なんで、なんで怒るの?水槽に映る朔也くんと目が合う。
朔也
朔也
俺の彼女に見られるのは嫌なのかよ
夢叶
夢叶
何が言いたいんですか?
 聞きたいけど聞きたくない。
朔也
朔也
口説いてんの分からないのかよ。恋人になりたいと言ってんだ
何を言っているの……?
夢叶
夢叶
だって、そんなの無理ですよ……
朔也
朔也
なんで?
夢叶
夢叶
だって、私はただの高校生で朔也くんはアイドルで
朔也
朔也
好きだ
時間が止まったような感覚になる。目の前のクラゲの動きが止まった様に見える。
なんて、重い言葉なんだろう。好きという言葉がこんなにも苦しくなるものだとは思わな
かった。
朔也
朔也
ただの藤朔也でおまえの側にいたい。アイドルでも生徒でもないただの俺を見てくれないか?
私を抱き締めている腕の力が強くなってくる。
私、朔也くんのこと好きかもしれない。でも、これって……
夢叶
夢叶
わ、私……わかりません。朔也くんのことは好きです。でも、この好きが朔也くんの正解なのか……わからないです
朔也
朔也
それでもいい。今すぐじゃなくてもいい
首元に朔也くんの吐息が当たる。
朔也
朔也
好きだ。夢叶
泣き出したいほど胸が熱い。苦しい、苦しいよ。

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