第21話

アイドルは、たった一人を想って
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2020/02/26 07:39
ドゴッ
口の中に血の味が広がる。思いっきり殴りやがった。
真広
真広
いつまで、ここでいじけているんだよ!
朔也
朔也
うるせーよ……馬鹿野郎
真広の左の鼻から血が出ている。頬も変色している。きっと、俺も同じような顔をしているだろう。
真広
真広
馬鹿野郎は、アンタだろ。早く会いに行けよ!
何度も言っているだろ。
朔也
朔也
俺もおまえも、アイツに会いに行く資格なんてない。いい加減に分かれよ!
真広の頬を拳で殴る。こんな、殴り合いの喧嘩したのは何年ぶりだろう。
殴られた反動で、床に座り込む真広の襟を掴む。
朔也
朔也
もう、これしかないんだ……俺たちがアイツを守るには
真広
真広
守る、守らないの問題じゃない……会いに行かないと後悔する
分かっている、そんなことは。会いに行けるのなら、今すぐ飛び出して会いたい。
無事なのか?怪我はどれぐらいなんだ?
もう一度、彼女の笑顔が見たい。

*****

白い光……?なんだろう。全体的に白く見える。規則正しい機械音が聞こえてきた。
私、どうなっているの?
…の!おい!久野!
水木先生?
水木先生
水木先生
大丈夫か!?おい、分かるか!?
あれ?身体が動かない。頭もなんだかぼんやりするし……
水木先生
水木先生
今、お医者さんを呼んだからな!
お医者さん?嗚呼、そっか。ここは病院なんだ。
夢叶
夢叶
わた、し……どうして……
水木先生
水木先生
……車に轢かれたんだ
夢叶
夢叶
そっか……
あまり、覚えていないというか記憶がないというか……なんとなく、身体にすごい衝撃を受けたような気がするかも。
だめ。頭がぼーっとする。
病室の外から、パタパタと走る音が聞こえてきた。

*****

水木先生
水木先生
良かった。特に頭の後遺症は無いそうだ
夢叶
夢叶
そうですか
とはいえ、左足骨折に右腕の骨にヒビ。
夢叶
夢叶
私も初めて自分の脳の画像を見ました。軽く、感動を覚えました
水木先生
水木先生
久野らしいな。少しは、頭を休めることも必要だぞ
夢叶
夢叶
……出来るでしょうか
何か考えてないと、朔也くんのことを考えてしまう。
水木先生
水木先生
辛かったな。ごめん。あんな大変なことを頼むべきじゃなかった
夢叶
夢叶
いえ。いいんです。楽しかったです
水木先生
水木先生
そっか……だけど、もう辞めよう
水木先生は、事情を知っているみたい。そうだよね。大地さんの弟だし。
水木先生
水木先生
あの2人が嫌いになったか?
私は首を横に振る。
嫌いになんかなれるわけない。
夢叶
夢叶
私、事故に遭う前、消えてしまいたいと思ったんです
水木先生の瞳が一瞬、大きく見開かれた。
水木先生
水木先生
……そうか
夢叶
夢叶
人を好きになることがこんなにも、苦しくて、辛くて、胸が張り裂けそうになるなんて知らなかったんです。誰も教えてくれなかった。こんなことなら、恋なんてしたくなかった
視界が霞む。だめ、先生に心配かけてしまう。
夢叶
夢叶
どんなに忘れようとしても、気のせいだと思っても胸の真ん中がキュって痛くなるんです
こんなの馬鹿げている。こんなの……
水木先生
水木先生
本当に好きなんだな
堪えていた涙が、一気に溢れ出す。
大粒の涙が、自分の意思と関係無く流れてくる。
夢叶
夢叶
どうす、れば、この想い、を捨てられますか?教えて、ぐださい!先生
私が捨てることが出来たら、解決するの?
水木先生
水木先生
ごめんな。それは、俺には教えられない
水木先生は、ごめんと繰り返しながら私の頭を優しく撫でてくれた。


*****

夢叶
夢叶
私、馬鹿みたい……
年甲斐もなく、先生の前で泣きじゃくって。
水木先生は、私が落ち着くまでいてくれた。泣き疲れて、そのまま寝てしまった間に水木先生は帰ったらしい。
これから、どうすればいいんだろう。

ガラガラ

不意に病室の扉が開いた。
夢叶
夢叶
え……
そこには、思いもしない人物が立っていた。
どうして……
真広
真広
ねえ、僕と逃げようか
夢叶
夢叶
……真広くん

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