ドゴッ
口の中に血の味が広がる。思いっきり殴りやがった。
真広の左の鼻から血が出ている。頬も変色している。きっと、俺も同じような顔をしているだろう。
何度も言っているだろ。
真広の頬を拳で殴る。こんな、殴り合いの喧嘩したのは何年ぶりだろう。
殴られた反動で、床に座り込む真広の襟を掴む。
分かっている、そんなことは。会いに行けるのなら、今すぐ飛び出して会いたい。
無事なのか?怪我はどれぐらいなんだ?
もう一度、彼女の笑顔が見たい。
*****
白い光……?なんだろう。全体的に白く見える。規則正しい機械音が聞こえてきた。
私、どうなっているの?
水木先生?
あれ?身体が動かない。頭もなんだかぼんやりするし……
お医者さん?嗚呼、そっか。ここは病院なんだ。
あまり、覚えていないというか記憶がないというか……なんとなく、身体にすごい衝撃を受けたような気がするかも。
だめ。頭がぼーっとする。
病室の外から、パタパタと走る音が聞こえてきた。
*****
とはいえ、左足骨折に右腕の骨にヒビ。
何か考えてないと、朔也くんのことを考えてしまう。
水木先生は、事情を知っているみたい。そうだよね。大地さんの弟だし。
私は首を横に振る。
嫌いになんかなれるわけない。
水木先生の瞳が一瞬、大きく見開かれた。
視界が霞む。だめ、先生に心配かけてしまう。
こんなの馬鹿げている。こんなの……
堪えていた涙が、一気に溢れ出す。
大粒の涙が、自分の意思と関係無く流れてくる。
私が捨てることが出来たら、解決するの?
水木先生は、ごめんと繰り返しながら私の頭を優しく撫でてくれた。
*****
年甲斐もなく、先生の前で泣きじゃくって。
水木先生は、私が落ち着くまでいてくれた。泣き疲れて、そのまま寝てしまった間に水木先生は帰ったらしい。
これから、どうすればいいんだろう。
ガラガラ
不意に病室の扉が開いた。
そこには、思いもしない人物が立っていた。
どうして……
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!