目の前ではあなたさんが蘭さん達に尋問を受けている。
その様子をニコニコと見守りながら、時折あなたさんの隣に座っている彼の様子を観察した。
彼は会話に入らず、スマホを操作しながらコーヒーを飲んでいる。
たまにその視線をあなたさんへ送っては、何事もなかったかのように視線をスマホへ戻していた。
…これまでの反応を見るに、彼はあなたさんに好意を寄せている…のだろう。
口角を上げ、営業スマイルで彼に話しかける。
彼は始めに視線だけをこちらに向け、スマホを切ってカウンターに置くと顔を上げた。
彼は警戒したようにそう答えた。
その彼に向かってとびきりの笑顔を浮かべる。
"僕の恋人"という言葉に、彼は眉を動かした。
僕の言葉に彼は眉間に皺を寄せる。
隠す気など無いようだ。
…もしくは無意識か。
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コンビニの駐車場に人だかりが出来ており、事件かと思って近づく。
野次馬を掻き分けて目にした光景は__
必死の形相であなたさんに呼びかける伏黒恵と
どこかへ慌てて電話をする黒づくめの男性。そして
真っ青な顔で血を流し、動かないあなたさんの姿があった。
野次馬から抜け出し、あなたさん達の元へ駆け寄る。
彼はハッとしたような表情をすると、顔を歪めてそう答えた。
焦って何をすれば良いのか、分からなくなっていたのだろう。
その時、あるものに視線が釘付けになった。
彼は怒りを押し殺したような声で、止血の手を止めずに答える。
…どうして逃げないんだ。
逃げるつもりがないのか?
…いや、それにしては様子がおかしい。
犯人だという女性はうつ伏せで、両手を背に回した妙な格好で横たわっていた。
どこか怪我をして動けない…という訳ではなさそうで、何かから逃げ出そうと身を捩っているように見える。
まるで…見えない"何か"に押さえつけられているようだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!