第19話

罵羅門の総長
4,842
2022/09/17 23:00
罵羅門のメンバーがみんな倒されて、あたりはしんと静まり返った。
高田 肇
高田 肇
お、終わったのか……?
高田くんの声に、はっと我に返る。
小鳥遊 蛍
小鳥遊 蛍
ああ。
とりあえず、カタがついた
高田 肇
高田 肇
よかった……
ホッと胸をなで下ろした高田くんに、蛍くんがぼそっとつぶやいた。
小鳥遊 蛍
小鳥遊 蛍
……お前まで巻き込んで、悪かったな
高田 肇
高田 肇
いや……
そのとき、向こうからひときわうるさいバイクの音が近づいてきたと思うと、
一豊くんの派手なバイクが突っ込んできた。
佐々木 一豊
佐々木 一豊
蛍!
大丈夫か!?
小鳥遊 蛍
小鳥遊 蛍
ああ。
今、終わったところだ
一豊くんがすぐに駆けつけて、蛍くんの顔を見ると、
佐々木 一豊
佐々木 一豊
って、どうしたんだよ?
その顔……!
めちゃくちゃボコられてんじゃん?
佐々木 一豊
佐々木 一豊
そんなに強い奴らだったのか?
一豊くんの言葉に、蛍くんはムキになって反論した。
小鳥遊 蛍
小鳥遊 蛍
ちげーよ。
あいつら、妃奈乃にナイフ突きつけやがった。
それがなければ、三分もかからねぇ
佐々木 一豊
佐々木 一豊
マジかよ……。
にしても、蛍がこんなにボコられたの、初めて見たかも
小鳥遊 蛍
小鳥遊 蛍
……フン
佐々木 一豊
佐々木 一豊
誰も蛍の顔を傷つけられないっていう伝説、とうとう破られちまったな
小鳥遊 蛍
小鳥遊 蛍
そんな伝説、いらねーよ
佐々木 一豊
佐々木 一豊
まぁ、この傷は妃奈乃ちゃんを守った、愛の証ってことか
小鳥遊 蛍
小鳥遊 蛍
ばーか。
それより、たまり場の方は大丈夫だったのかよ?
罵羅門の奴ら、結構な人数がいただろ?
佐々木 一豊
佐々木 一豊
あんなの楽勝!
鉄男なしでも、余裕だった。
数だけいりゃいいってモンじゃねーな
小鳥遊 蛍
小鳥遊 蛍
……これから、しばらく罵羅門と小競り合いが続くだろうな
佐々木 一豊
佐々木 一豊
……だろうな
すると、また向こうから、暴走族らしいバイクの音が近づいてくる。
小鳥遊 蛍
小鳥遊 蛍
誰だ……?
工場に入ってきた三台の派手なバイクに、緊張が走る。
佐々木 一豊
佐々木 一豊
うちのメンバーじゃねーな
いかつい三人がバイクを降りて、こちらに向かって歩いてくる。

それを見た蛍くんは、さっと私をかばうように前に立った。
森下 妃奈乃
森下 妃奈乃
(なんか、すごく怖そうな人たちだけど……)
危険な雰囲気の三人に、蛍くんに身を寄せて様子をうかがっていると、
佐々木 一豊
佐々木 一豊
アイツ、まさか……!
一豊くんが息をのんだ。
小鳥遊 蛍
小鳥遊 蛍
知ってんのか?
佐々木 一豊
佐々木 一豊
罵羅門の八代目総長、国分寺こくぶんじ
小鳥遊 蛍
小鳥遊 蛍
!?
蛍くんはそれを聞いて、とっさに構えた。

三人は私たちの前まで来ると、長い髪をひとつに束ねた、彼らの中で一番大きな男の人が口を開いた。
罵羅門・総長
どいつがBLUE MOMENTの総長だ?
森下 妃奈乃
森下 妃奈乃
(こ、怖い!!)
目の前に立っただけで、怖くて泣きそうだ。

鉄男くんよりもさらに大きくて、筋肉のつき方がハンパない。
鋭い眼光からも、不良達を取りまとめる立場の人物だということがうかがえる。
小鳥遊 蛍
小鳥遊 蛍
俺だ
けれど、蛍くんはひるむことなく、罵羅門の総長を見据えた。
罵羅門・総長
うちのメンバーがいろいろ世話になったみてぇだな
小鳥遊 蛍
小鳥遊 蛍
……仲間の敵を討ちにきたのか?
蛍くんはそう言って身構えたけれど、
罵羅門の総長は、蛍くんの横を通り過ぎて、榎本くんの方へと歩いていく。
小鳥遊 蛍
小鳥遊 蛍
え……?
蛍くんは肩透かしをくらって、罵羅門の総長を目で追う。

すると、罵羅門の総長は、倒れている榎本くんのお腹を、いきなりドカッと蹴り上げた。
榎本 冴己
榎本 冴己
ぐはっ……!
森下 妃奈乃
森下 妃奈乃
(えっ!?)
私たちは、その光景に目を見開いた。
罵羅門・総長
榎本ォ!
起きろや
榎本 冴己
榎本 冴己
あ……、
総、長……?
気絶していた榎本くんは、突然の攻撃に意識を取り戻す。
罵羅門・総長
俺の知らないところで、ずいぶんと好き勝手やってくれたみてぇだな
罵羅門の総長は、倒れていた榎本くんの胸ぐらをつかんで、上半身を持ち上げた。
榎本 冴己
榎本 冴己
あ、う……
罵羅門・総長
勝手に仲間集めて、何コソコソやってんだよ?
ああ?
榎本 冴己
榎本 冴己
BLUE MOMENTの総長をやっちまえば、手柄を立てられると思って……
罵羅門・総長
俺はなぁ、自分の知らないところで、勝手に動かれるのが、一番嫌いなんだよ!!
そう言って、榎本くんに容赦ないパンチをくらわせた。
榎本 冴己
榎本 冴己
ぐはっ!
罵羅門・総長
しかも女を人質にしねぇと勝てねーのか?
罵羅門の面汚しが!
罵羅門の総長は怒りにまかせて、榎本くんの髪の毛をつかみ上げると、頭突きを食らわせた。
榎本 冴己
榎本 冴己
があっ!
額から血を流しながら、榎本くんはがくりとうなだれる。
罵羅門・総長
おい、気ぃ失ってる場合じゃねぇぞ。
今からゆっくり話を聞かしてもらう
そう言って、軽々と榎本くんを肩に担ぎ上げると、こっちに向かって歩いてきた。
罵羅門・総長
……ってなわけだ。
今回のことは、榎本と一部のメンバーの独断だ
罵羅門・総長
チーム内の下克上のために、アンタら巻き込んだみてぇで、悪かったな
小鳥遊 蛍
小鳥遊 蛍
……まぁな
罵羅門・総長
榎本には、俺がきっちり話をつけておく。
……今回は、それでこの場を収めてくれねぇか
小鳥遊 蛍
小鳥遊 蛍
え……?
罵羅門・総長
俺らとしては、アンタらと無駄な抗争をするつもりはねぇ
小鳥遊 蛍
小鳥遊 蛍
それは……、俺らも同じだ
蛍くんの言葉に、罵羅門の総長は、少しだけ表情を緩めた。
罵羅門・総長
……アンタには、ひとつ借りができたな
小鳥遊 蛍
小鳥遊 蛍
高くつくぞ
蛍くんの言葉に、罵羅門の総長は口の端を上げて笑った。
罵羅門・総長
おい、行くぞ
罵羅門のメンバー3
ハイッ!
そして、罵羅門の総長は榎本くんを担いだまま、仲間を引き連れて廃工場をあとにした。

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