前の話
一覧へ
次の話

第4話

『御伽草子』
22
2020/04/22 04:43
「紫月、どうかした?」
朝。
ぼーっとしていると、クヌギさんに声をかけられた。
「うん。まぁね…」
「まぁねって…どうかした?最近笑ってないから…」
そんなに笑って無いかな…?
まぁ、いじめられてるしね…今日は学校が休みだからいいけど。
「ちょっと出かけてくるね、クヌギさん。」
「気をつけてね」
ヒガンのいる池に行くと、1人のお婆さんがいた。
挨拶はしとこ。
「おはようございます…」
「あら、おはよう。彼岸様を見に来たのかい?」
彼岸様?ヒガンの事だよね?
木の枝に腰掛けるヒガンを見ると、ヒガンも首を傾げている。
「彼岸様って?」
「この桜の事よ。彼岸様にはとある昔話があるんだけど…聞きたい?」
「はい!」
そのお婆さんが話してくれたのは、ヒガンにまつわる話だった。
時は平安時代。
とある貴族、滝宮家に…って!私の家系じゃん!
話を戻して、滝宮家には静という綺麗な娘がいて、植物と会話する事が出来たらしい。
そして、長き時を生きた彼岸桜の精霊に恋をした。
が、静には結婚を約束された男がおり、その男が嫉妬して彼岸桜に火を付けた。
余り咲くことが無かった桜だから、燃やしても構わないだろうと。
静は炎を纏う彼岸桜の幹に縋り付き、自らも燃えようとした。
それを見た彼岸桜の精霊は、静を抱きかかえて桜の木から離れた。
しかし、時既に遅し。静は死んでしまい、精霊も不甲斐ない自分と静の死に悲しみ、散った。
それを見て、可哀想に思った神が、彼岸桜にもう一度生きる力を与え、告げた。
『あの娘と再び会える機会をやろう。それまで休むがいい。』
神にそう言われた直後、彼岸桜は今までで一番満開に咲き誇り、その年から咲くことが無かったという。
「彼岸様は神代に生まれた桜だから、神代桜って言うんだけど、此処では神が現れた夜に咲いた桜だから、神夜桜っていうのよ…。ここ9回ほど咲き誇っているから、静様を見つけたのかもしれないねぇ…」
「そうなんですか…」
「あ、そういえば…貴女はなんていう名前なの?」
「滝宮 紫月です…」
名前を告げると、お婆さんは驚いた顔をした。
「あら…まぁ。この辺りで滝宮といえば静様の家系くらいねぇ…まぁ、驚いた…」
「えへへ、私もです…」
「じゃあね紫月さん。」
「はい。お気をつけて…」
お婆さんを見送り、ヒガンの根本に腰掛ける。
「ヒガンは…知ってた?」
「多分僕の事だろうけど…覚えてない(´-ω-`)」
「静様かあ…誰の事かな?」
ヒガンのところへは小さい頃から来ていたけれど…咲いてたかどうかなんて覚えてない…
「あ、でも最近変な夢を見るんだ…」
「夢?」
ヒガンによると、ただ真っ暗な中を落ちて行く夢で、落ちきった時に前に女性が立っているらしい。
「あれが…その、静?なのかな。」
「じゃあヒガンは…夢で会えたから咲いてるの?」
「いや、夢を見始めたのは最近だし、咲いてたのはもっと前だよ。」
じゃあ…神は、もう一度会う機会まで休めっていってたから…咲き始めた時、何かあったのかな?
「ヒガンが咲き始めた頃、何かあった?」
「何か?」
「感覚とか、出来事とか…」
そう聞くと、ヒガンは考える素振りを見せた。
「僕は春になってから1日目に起きたら桜が咲くんだけど…あの時は起きてすぐに誰かを探さなきゃって衝動に駆られたな…。それで、紫月を見つけたんだ。」
ヒガンが探そうとしていたのは静さんで間違い無い。
けど…私と出会ってからヒガンが咲いているのがもやっとしてるなあ…
私が静さん?ってなるし…
「私の家系が静さんの末裔なら、何か資料が残ってるかもしれない…!探して見るね、ヒガン。」
「僕も!何か思い出してみるよ。」
そして、この日はヒガンと別れた。
一体…どういうことなのかな…

プリ小説オーディオドラマ