エポニーヌさんは、何も言わない。気絶しているようだ。見たところ、目立った傷跡は特にないけど……
人質を取られたことにより、場に緊張が走る。
ヴィヴィアンネさんは彼の方に向き直り、そう尋ねた。
そして彼は丁寧にお辞儀をする。
皆が驚いた表情で私を見る。
私が何も言えないでいると、何かを察した鈴華が助け舟を出してくれた。
ヴィヴィアンネさんの声がより一層厳しくなる。
彼はまるでこの状況を楽しんでいるかのような笑みを浮かべている。
一体何者なの?
花霞の前向きな態度が私たちに元気を与えてくれた。
彼はそう言って、人差し指を口元に持ってくる動作をする。
鈴華が私達にだけ聞こえるような小さな声で唸るようにそう呟く。
するとヴィヴィアンネさんは私達より前に進み出る。
彼はわざと考えるような動作をする。もったいぶっているようだった。
私達の間に少しの沈黙が流れる。
すると、
声が聞こえたので見てみると……司書のジャブイユ姉妹だ。
様子を見る限り、2人も音の原因を探りに来たのだろうか?
……なんか2人だけで会話が進んでしまっているような?
そして2人は去っていった。
そうだ、王様はこの国の最高権力者。これなら……
彼は余裕な態度を崩さずにそう言った。
なんだか嫌な予感がする。
そしてそれは皆も同じだったようだ。
これには皆……ヴィヴィアンネさんまでもが動揺を隠せない様子だった。……もちろん私も。
私は、思った事をそのまま口にする。
でも、ここは私たちのいた世界じゃない。魔法も存在する世界だ、もしかしたら可能なのかもしれない……
そして、この場で誰よりも焦り、必死だったのはニコレットちゃんだった。
それもそうだ、お父さんもお母さんも敵側に人質として取られてしまったのだ。必死にならないわけが無い。
そして、疑問がまた1つ。
ここにはエポニーヌさんは居るのに、ジェルヴェさんはいない。それは何故?
彼は相変わらず気味の悪い笑みを浮かべている。
私がちょうど疑問に思っていた事を結萌ちゃんが聞く。
私は、この状況でも何も出来ないのが悔しかった。
そう言ったニコレットちゃんの表情はとても複雑そうな表情だった。
恋の口がいつにも増して悪い。それほど怒ってるんだ。
恋は……人一倍正義感が強いから。
ヴィヴィアンネさんは彼を睨んだままだ。
2人がそんな話をしていると、
そう言いながら、彼はゆっくりと後ろを向く。
皆の表情がたちまち曇っていく。
それじゃあニコレットちゃんのお父さんとお母さんが帰ってくるだけで改善にはなってないんじゃ……
そう言って彼は振り返り、私とニコレットちゃんの方を見る。
そして、暫く沈黙が続く。
私は、ニコレットちゃんのお父さんとお母さんが帰ってくるなら……
と思っていたが、
私の考えを察した鈴華が、まるで「ダメ」と言うように私の手を握ってきた。
すると、
いきなり彼が笑いだした。
恋が睨むと、
そして彼はひとしきり笑った後、
そう言いながら、ヴィヴィアンネさんは彼の方に歩み寄る。
花霞が心配そうにヴィヴィアンネさんの様子を伺っている。
そして、
そう言うと、ヴィヴィアンネさんは1本のナイフを彼の喉元に突きつけた。
彼は少しずつ後ろに下がっていく。その時は、彼もさすがに驚いている様子だった。しかし挑発はやめないようだ。
皆が驚いている事は気にせず、続ける。
そう言っている間も、ヴィヴィアンネさんはじりじりと彼に近づいて行く。
その時のヴィヴィアンネさんの声は、いつものように穏やかな声ではなく、とても厳しい声だった。
今まで感じたことの無いくらいの圧を感じる。
そしてとうとう、彼の背中が壁に触れた。
でも何故だろう、このままじゃいけない気がする。
ヴィヴィアンネさんがヴィヴィアンネさんでなくなってしまう……そんな気がした。
私達が迷っていると、
バシッ……!
という音の後に、
カラン……
というナイフの落ちる音。
この時は、誰もが状況を把握しきれなかった。
そこに居たのは……!
そこには……ロズリーヌさんがいた。
どうやらヴィヴィアンネさんからナイフを叩き落としたみたいだ。
彼は腕を組みながらロズリーヌさんを見る。
そして彼の方を見ると、いかにも「つまらない」といった表情をしている。
そして周りに煙が出てきて、それが消えた頃には彼もエポニーヌさんも消えていた。
その代わりに……
そこには、地図とメモが残されていた。
地図にはこの王国が、そしてメモには……
"3日後、2人を取り返したいならここにおいで。地獄に堕ちる覚悟は出来てるかな?"
と書かれていた。よく見ると、地図には赤い印がついている。
何があっても、絶対に負けない!
そう私たちの心が1つになった瞬間だった。
ー最終決戦まで、あと 3 日ー
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。