控え目にノックするも
返事が聞こえない。
わたしのさっきの解釈はポジティブ過ぎたかな…?
恐る恐るドアをわずかに開けて
変だけど片目で覗いた。
あ、寝てる…
部屋に入ると、電気は豆球で
おそらく、座ったまま後ろに倒れて
そのまま寝てしまったような
ベッドに対して十字にクロスするように
寝てる晴人さん。
掛け布団は晴人さんの体の下。
言葉とは裏腹に
寝顔が綺麗だけど可愛くて
とても起こすような声の音量は出せない。
母性をくすぐられてしまった気がして…
晴人さんの顔よりも少し上の位置で隣に寝転んだ。
本当にぐっすり寝ちゃってるな…。
ぐっすり…。
ぐっすり……だよね?
わたしは晴人さんの顔を覗き込んだ。
頬っぺたにキスを落としても、起きない。
一度キスをしたら、愛しさがこみ上げて
口角があがったままのわたしの唇が
どんどんイタズラ心を増して
顔のあちこちにキスを落とす。
唇はしないでおこう、なんとなく。
けど、キリがないからこれで最後にしよう。
右の頬に唇を長めに残した。
ぐっすり寝てたはずの晴人さんは
わたしの体をがっちりと抱きしめていた。
いつのまにか
わたしの真上に
晴人さんの顔がアップで、目が合ってしまった。
「違います!」って言いかけた時
さっきわたしがしていたように
触れるだけのキスをわたしの顔に
たくさんし始めた。
そして
さっきわたしが我慢した
唇同士のキスが始まってしまった。
やっと唇が離れても
あともう一口、あともう一口
と楽しむように短いキスが続いた。
そう言うと
晴人さんは、わたしの首元に顔を埋めた。
今日は……その、する前に、
気持ちを伝えてみようかな。
あ……でも……
ダメだった時、わたしが聞きたくない答えが返ってきた時
晴人さんとの日々が無くなってしまうかもしれない。
そうなるくらいなら、もう…
今のままでも…わたしは、充分幸せだ。
わざわざ賭けで自らの、その幸せ壊すことないよね……?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!