玄関を開けると、元カレの家の匂いじゃなくて
ちゃんと晴人さんのお家の匂いがして
すごくホッとした。
物音で気づいてくれたんだろうか。
向こうのほうから声がする。
リビングの扉を開けた。
リビングでソファに座って
パソコン作業をした晴人さんが、わたしを見た。
ポカンとあいた唇。
またホッとして
堪えていた涙がこぼれそうになって
笑ってごまかす。
キャリーバッグを部屋に運んで
荷物をバラすと、また元カレの香りが漂う。
慌てて部屋着に着替えた。
わたしの部屋着はもうこのお家の匂いがするから。
生地を鼻に近づけて深呼吸した。
もう一度片付けを再開しようとしたけど…
さっきの元カレの余裕そうな表情や
言葉が浮かんで辛くなる。
そして、キャリーバッグを元どおりに閉じた。
…今日はダメだ。
夏服なんてまだ使うの先だし
もう少し落ち着いてからにしよう。
晴人さんは、パソコン作業が終わったのか
両腕を上に伸ばしながら
首をゆっくり回していた。
わたしは晴人んの元に行って
床に正座をした。
わたしは苦笑いしながらそう言った。
そう言って、晴人さんはゆっくり腕を伸ばして
わたしの頭を撫でてくれた。
なんだろ…すごく安心する…。
どうして?
さっきまで元カレと会って
メンタルが弱ってたのかも。
ただただ…それだけ。
な、はず。
晴人さんは、「あ」っという顔をして
晴人さんはそう言って
わたしの頭から手を離した。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!