いきなりこんな距離で…
…しかも仕事中に目が合っちゃって
心臓が飛び跳ねるかのように
パフを持つ手を素早く引っ込めてしまった。
なんで謝ったんだろわたし……。
…すごい…晴人さんほんとにお肌綺麗だなぁ…
リップクリームを最後の仕上げに
塗ろうとしたところで
わたしから
リップクリームのついた綿棒を取ろうとした。
その瞬間に手が重なって、ビクッと反応して
…つい綿棒を落としてしまった。
綿棒は、晴人さんの膝の上にぶつかって
床に落ちた。
ど…どうしよう……
ズボンにシミができちゃった……。
田口さんのメイクをちょうど
終わらせようとしていた先輩がこっちを気にした。
晴人さん………。
いや…優しさに浸ってる場合なんかじゃない。
実際にシミができてしまってるんだから。
膝のシミをどうにかしようとしゃがみこんだ。
そんなわたしを見下ろして
晴人さんは少し笑った。
そして人差し指を唇の前に立てて
わたしに、" し~ " と合図をしてきた。
晴人さんは
サッとティッシュで払うように拭いて素知らぬ顔で
とだけ言った。
…晴人さんが、かばってくれてなければ
スタイリストさんに怒られるとこだった。
そんなことより、気をつけなきゃ!
仕事は仕事。ドキドキするな、わたし。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。