瑞希視点。
数年前…俺が中学3年生の時の話。
洸が引越しをしてしまい、俺はまた1人に。
クラスでは一際雰囲気が暗く、
浮いた存在となってしまっていた。
……というか、少しだけいじめを受けていた。
クラスのほんの一部の不良たちから。
そういったこともあり、俺は苦痛の日々を送っていた。
そんなある日のことだった。
(ここからは現在の瑞希が過去のことを読者さんに説明している感じで書きます。なのでセリフ部分以外、過去の瑞希の一人称と違いますが、ご理解を。)
授業が終わり、昼休みになると、
教室の隅で1人ため息をついた。
教室はクラスの人達で賑わい、踊り出したり鬼ごっこを始める奴で溢れかえっていた。
当時、クラスに混ざってバカ騒ぎができなかった俺はひっそり教室を抜け出し、どこか人がいない場所で1人で過ごす。
それが昼休みの習慣だった。
その日も同じように教室を抜け出そうと席から立ち上がろうとした。しかし、立ち上がる直前に俺の机に手をつき、俺の顔を覗き込んできた奴がいた。
ソイツのせいで俺は立ち上がることが出来ず、椅子におしりをつけたまま動くことが出来なかった。
突然の声に震えながら見上げると、そこにはクラスで1番明るいと言ってもいいほどの陽キャ男子がいた。
中学生なのに髪は金髪で耳には1つずつピアスが開いていた。
もちろん校則違反だ。
正直いってとても怖かった。
殴られるんじゃないか、机を蹴飛ばされるのではないか……考えれば考えるほど嫌な妄想が拡がっていく。
しかし、その男から出た言葉は
想像していたものとは違っていた。
(親の離婚前なので苗字は月城ではなく天瀬です)
そう言うとコウタは俺の腕を持ち強引に立ち上がらせると、教室の外でたむろっていた陽キャ集団の元に駆け寄った。
サッと見た感じ、集団の中に俺をいじめていた奴らは一人もいなかった。
コウタに話しかけられた男は驚きながらもそう言うと、
俺に近づいてきた。
見たことない顔だった。
男は俺の手を握り、握手してくる。
ハヤセがそう言うと、
他の男たちも俺を囲むようにして自分の名前を名乗った。
高身長の男が俺の頭を撫でながらそういう。
コウタが元気よくそう言うと、
会話していた男は笑みを浮かべた。
俺はふたりの会話を頭にはてなマークを浮かべながら聞いていた。すると、後ろから腕を引かれた。
俺の腕を引いた男は俺にそっと耳打ちしてくる。
「コウタに本気で気に入られる前に早く逃げろ。精神ぶっ壊れる前にな。」
俺が男に尋ねようとすると、再びコウタに腕を掴まれて引っ張られた。
チラッと耳打ちしてきた男の方を見る。
男は俺を憐れむような目で見つめていた。
この時、俺にもう少し勇気があれば。
あの男のの言うことを聞いて、コウタと距離を置けていれば、あんなことにはならなかったのに……。
その日の放課後。
俺はコウタに連れられ、社会科準備室の前に行った。
コウタが大声を出して扉を開けた。
扉の奥に待ち受けていた光景。
2年経った今でも忘れることはない衝撃の光景。
5人の男子高生が床に血を流して倒れ込んでいた。
俺はガタガタと身体を震わせ、その場から逃げ出そうとした。しかし、ガシッとコウタに腕を掴まれてしまう。
コウタはそう言うと倒れていた男の頭を掴んで俺に見せつけてくる。
たしかに血まみれになったその顔は俺を毎日のようにいじめてくるやつの顔だった。
顔面を真っ白にさせ震えている俺にコウタは語りかけた。
震えていると、ひとりの男に腕を引かれた。
昼休み、俺に耳打ちしてきた男だった。
コウタはそう言うと、他の男を連れて帰って行った。
男はわしゃわしゃと頭を撫でると、部屋を出ていった。
数ヶ月後。
結局俺はコウタから離れることが出来ず、ずっと一緒にいた。
しかし、そのおかげか誰かに虐められることは無くなった。
コウタも周りの陽キャたちも俺に良くしてくれていた。
だが、コウタ達の殴り込みが無くなることは無かった。
俺はいつも、その光景を隅で脅えながら見ていた。
止める勇気がなかった。見捨てられたくなかったから、虐められたくなかったから。
しかし、ある日突然あの男が言っていた"時"が来た。
ある秋の日。
いつものようにコウタに連れられ、
社会科準備室に連れてかれる。
その扉を開けた先では茶髪の男が血を流して倒れ込んでいた。
見慣れてしまった光景。
この時、恐怖を感じ無くなっていた俺の精神は狂ってしまっていたのだろう。
男の言葉を聞いて、俺は倒れている男を見る。
男は浅く呼吸を繰り返しており、指先が小さく痙攣していた。
コウタは満面の笑みで俺に野球バットを渡してきた。
コウタにバットを押し付けられ、思わず受けとってしまう。
有無を言わせないコウタからの圧。
その目を見た時、俺の中で「今逃げたら俺が殴られる、虐められる」という警告が鳴った。
倒れ込む男の前にバットをもって立つと、血だらけの男が助けを求めるような顔で俺を見つめてくる。
そう、俺はこの日初めて人を殴った。
コウタに言われるがままに何度も何度も。
血だらけになったバットを振り上げては茶髪の男に向かって振り下ろした。
気がついた時には、もう周りに人はほとんどいなかった。
残っていたのは血だらけの男と大きく息を切らしながら大量の涙を流す俺だけ。
俺は血だらけで横たわる男の前に正座し、頭を下げる。
男からは返事がない。
それでも俺は何度も何度も謝り続けた。
謝ってもどうにもならないと分かっていた。
でも謝ることしか出来ず、名前も殴られる前の顔も分からない男にただひたすらに謝り続けた。
月日が経ち、俺は高校生になった。
高校はコウタたちと違う高校を受験し、ようやくコウタやあの集団と離れることが出来た。
俺は高校に入って自分を変えた。
長かった前髪を切り、真っ黒だった髪を茶色に染めた。
中学の時のように、目をつけられないように。
高校2年の時、逢坂要という男と知り合った。
ひとつ下の後輩だった。髪は金髪で耳にはピアスが、頭には常に黒いニット帽がのせられていた。
見た目は不良だったが、関わってみると中身は面白いやつで、要はよく俺に話しかけてきた。
俺が引越しをすることを伝えると、要は悲しそうな顔をした。
要は少し考え込んだ顔をしたあと、俺を見つめた。
目の前の景色が真っ白になる。
要はそう言うとニコッと笑う。
しかしその目は笑っておらず、
要は手を俺のネクタイに伸ばした。
要は俺のネクタイを自分の方に引きつける。
要が笑顔で詰め寄ってくる。
……本気なのか?俺は中学の時にあんだけ酷いことしたのに、
そんな約束4つだけで許してくれる……?
要は俺の手をとると、強く握りしめてくる。
今までの恨みを全て込めるように。
俺の手の骨がゴリッ……と音を立てるが、
要はそんなのきにすることもなく握り続けた。
そんなことがあり、俺は転校した今でも要と関わっている。要が本当にあの日のことを許したのかは分からない。でも要は俺が引っ越した後も今までと変わらない態度で接してきた。
本当にあの日の男が要だったのか信じられなくなるほど、
今までと変わらない態度。
しかし、ちょうど今から1週間程前。
要が新賀の隣の部屋に引っ越した後。
今まで最低な行動を繰り返してきた俺に天罰が下った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。