過呼吸気味になっていた私の手が震えていたのを察して 萌がペットボトルのキャップを開けて 飲ませてくれた。
萌について行く前に ボソッと囁かれるように言われた一言。
もうその一言が 本番前までずっとずっと耳に残って
舞台袖に居るはずなのに 緊張のドキドキよりも 次に海人くんと目が合わせられるかのドキドキが勝っていた。
劇は 練習通りに上手く進んで行き クライマックスに。
廉くんと海人くんの描いてくれた脚本は 役と役の掛け合いがコメディっぽくなっていたりして 見ているお客さんを笑いに引き込んでいた。
ダンスも 最初はステップがなかなか上手く出来ずに 萌と休みの日もマンツーマンで指導してもらったりしたお陰で 本番ギリギリにやっと合わせることが出来た。
そして かぐや姫が成長し 月へ帰っていくシーンは 成宮先生が直々に放送部の顧問の先生に 感動するようなクライマックスにしたいと脚本をお願いしてくれた。
そのお陰で 観客席から少しだけすすり泣く声が聞こえた。
やっぱあの先生いいお話描けるんだなぁ…
一方 私は 舞台袖に下がる度に 少しずつ 海人くんから貰った はちみつ柚子茶をちびちびと飲んでいたのもあり 最後の挨拶まで緊張せずに済んだ。
ステージ裏の更衣室で着物を脱いでいると萌に声を掛けられた。
モテるのは分かってるよ。
言う勇気が欲しいの。
海人くんの隣を歩きたいってワガママ。
今まで気づかなかった自分の気持ち。
上手く言葉にして伝えられますようにと
空になったペットボトルにお願いした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。