『ザワザワザワ…』
会場内は広く、慌ただしく観客や関係者が行き来を繰り返していた。
会場内の通路を暫くウロウロした私は、
『関係者以外 立ち入り禁止』の小さな表示が貼られたドアを見つける。
(これって入っても大丈夫なやつだよね…?)
辺りを何度か見渡した後、ゆっくりドアノブを回す。
『ガチャッ』
その時、不意に行き交う人々のたわいのない会話が私の耳に入って来た。
(『エンデヴァー』…)
何かが引っかかっているのを感じたまま、私はドアを押した。
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細い通路を歩き、再び現れたドアを開けると階段があった。
上っていくと幾つか部屋が並んでいた。
(それにしても、流石雄英…ここまで広いと先生達や皆、知ってる人さえも探すのが大変。)
廊下の奥に階段を示すピクトグラムが天井近くにあるのを見た私は、
真ん中を歩かないように壁に沿うように歩き始める。
不意に漏れた言葉と共に、再び彼らの事が頭をめぐり巡る。
(私は皆に会って話がしたいし、謝りたい…けど……)
足が重くなり、進むスピードが徐々に遅くなる。
(皆は…)
────私に会いたくないと思うかもしれない。
そんな事を考える度に、今、自分がこの会場内に来ている事が果たして正解なのかどうか分からなくなる。
いや、始めから正解なんて無いのかもしれないが。
この現状に過ちや現在の状況に原因があったとすれば、
それは誰のせいでもなく、
初めて会った時から皆に自分の事を偽っていた私が悪いのは誰が見ても分かる。
(そもそも私が目を覚ましたこと、知ってるのかな?)
(取り敢えず、相澤先生に顔を出してから)
『ガチャッ!!!』
『ドンッッ』
いきなり視界いっぱいに、迫り来るドアの姿が映った。
次の瞬間には額を中心にぶつけ、頭を弾かれたように背面に反る。
『パシッ』
後ろへと座り込みそうになった私の腕を力強く掴んだのは、
しっかりとした筋肉のついた手だった。
『グイッ』
私の腕を引き上げると、
彼は私の顔をすぐさま覗き込む。
すっきりと前髪を上げ、真っ赤なサイドの髪が上へと固められたヘアースタイルが見えた。
彼は私の腕をしっかりと掴んだまま、ドアの開いたままの部屋の中へと引きずり込む。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。