前の話
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「なぁ、」
「ん?」
「…これ、もらってくれね?」
卒業式。節目の季節。
だったら、この気持ちにも区切りを付けないといけない季節。
「んだコレ。…ん?お前の第2ボタンじゃねぇの?」
「誰も貰ってくれる人居ないんだよ笑分かって笑」
「あぁ。そう言う事かw…ま、俺は彼女にあげたからもうねぇケドw」
「うっぜw…ま、良いから受け取れよ。」
「しょうがねぇなぁ。…大事に持っててやるよw」
そう言って、俺の第2ボタンを受け取ったアイツ。…俺の気持ちなんてアイツは一生知らない。…いや、知らなくていいんだ。どうせ、あのボタンは捨てるか忘れるかするのだろう。…でも、それでもアイツは、嫌がらずに受け取ってくれた。俺にはそれで、充分、なんだ。
「あざす。」
少しの沈黙の後、
「あー。じゃ俺これからクラスの打ち上げ行く。」
「おう。…卒業、おめでとうな」
「お前もな。…じゃ、また連絡する」
「…じゃあな」
…そう言って、アイツは背を向けた。
背中が見えた瞬間に今までの想いが、込み上げて来たような気がした。
…でも、それでも
…蓋をしなきゃ、いけないんだ…。
気付かれない
その方が幸せだ。
捨てるだろうか
それでもいい。
これでいいのか
充分だ。
これで、蓋をすれば良いだけ。
自分の中で、決心を固めたその時、
先を行ったアイツが
「あ、そうだ」
とくるりと振り返り、
俺が、どうしようもなく焦がれた、あの、眩しい笑顔で
「お前とダチで、よかった」
と最後、言い放ち
今度こそ、振り返る事は無かった。
…あぁ。俺はアイツにとって、良い友人であれたんだ。………よかった。
……本当に?
本当は、彼女なんか作って欲しくなかったのではないのか、本当は気持ちを伝えたかったのではないのか、本当はあげた第2ボタンだって、捨ててなんか欲しくないのではないのか、本当は…………
何も、足りていないんじゃないのか。
……こんな事、今更考えた所でもう、遅い。
残された俺は、同級生達のガヤガヤとした音の中、1人佇んでいた。
…胸の奥で、キュ。と音が鳴る。
口の中に1滴流れ込んだ水は 、とても甘かった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。