_____「危ない!」
それこそ本当に、運命のようだった。
いや必然だったんだろうか。
前を歩いていたひょろひょろした女性が、
なんだかすごくふらついていて気になって見てみると、
やっぱり倒れそうになって慌てた彼女の手を引いて、細く軽い体を受け止めた。
よく見ると、彼女はあの時カフェから見えた女性だった。
どこを向いているのかわからない彼女の瞳は、
絶望を見ているかのように光を失っていた。
彼女に呼びかけると、
彼女は力のない声で言った。
全く大丈夫には見えない彼女。
けれどゆっくり俺から離れて1人で歩き始めようとした、その時だった。
ありがとうこざいます、そう言いかけたように思えたが、彼女は力が抜けたようにふわりと俺の腕の中に舞い戻ってきた。
びっくりしてどうすればいいのかわからなくなる。
病院、病院連れてかないと。
冷静になって近くに病院があったか考える。
あそこなら救急車を呼ぶよりも自分で運んだほうが早い。
そう思って彼女を背負い小走りで病院へと向かった。
病院のベットに泣かされた彼女は死人のように白くて、
儚く感じられて、
このまま俺の前から消えてしまうんじゃないかと思った。
ただこのまま目が覚めないことを考えると怖くてたまらなかったのを覚えている。
彼女の目からも涙が流れていた。
その時のことを俺はいつまでも忘れられない。
眠っている彼女の目の端からスーッと一筋の涙が流れていた。
こんなに美しくて、
綺麗で、儚い涙は見たことがなかった。
それと同時に、
俺にはよくわからない感情が芽生えていた。
彼女は何を思って、誰を思ってこんなにも綺麗な涙を流したのか。
何がそんなにも...悲しいんだろう。
そう思っていると彼女が誰かの名前を呼んだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。