いつの間にか、私の目は涙で何も見えなくなっていた。
頭がぼーっとしていた。
私は涙を隠すために慎は周りの人と私を遮るように立った。
何も言えなくて、
何も言いたくなくて。
陸。
言わないように、
思い出さないように、
心の中に封じ込めていた名前。
彼の名前。
その時、強く芯のある声が、
私だけを見つめる瞳が、
私を彼の前へと呼び戻した。
彼はもう一度、
落ち着いているけど少し怒りを含んだような声で、
真剣な眼差しで、
私に向かって言った。
悲しげに、壊れそうに慎は言った。
ごめんね。ごめん。ごめんなさい。
誰に向けて言ったのか、
きっとみんなだろう。
私はまだ、誰とも向き合えていないのだから。
私たちは黙ったまま歩き始めた。
離れた手と手。
さっきよりも遠く感じる君の背中。
悲しそうな慎の瞳を思い出しながら、
重い足を引きずるように歩く。
その時、彼の手が私の手に絡まった。
彼の声は、少し震えていた。
何かに怯えるようで、怖がっているようだった。
温かい慎の手を優しく握る。
あなたは、何を考えているんだろう。
なんで私なんかの隣にいてくれるんだろう。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。