帰り道
よく彼が来るのを待っていたバス停。
今日は誰を待って座るのか。
私はぼーっとしながら、
バス停のベンチに腰を下ろす。
目の前の車道をただ車が過ぎ去っていくのを見る。
バス停の灯りが、
チカチカとついたり消えたらしていた。
陸はなんていうだろう。
もし陸がここにいたらなんて言っただろう。
バカだなあって、私を笑い飛ばすだろうか。
他の男なんか見るなって、唇を尖らせて拗ねるだろうか。
彼はなんて...いうだろうか。
空を見上げると街中の灯りのせいでただくらい空が広がるだけだった。
ひたすら空を見上げて、
ぼーっとしていたときだった。
驚きで言葉が出てこなくてぱくぱくと口だけが開いたり閉じたりを繰り返す。
笑いながら私の肩を両手でぽんぽんと叩いて、
彼は私の隣に座った。
それにしてもすごく久しぶりに会った気がする
目の前に停めた車を指差して、
ドライブしてた、と言った。
翔吾さんは私の顔を伺うようにして、
寂しげに小さく微笑んだ。
そして少し不満そうに、
と、笑いながら言った
はははっ気付かなかった、と私もつられて笑う
すると、翔吾さんは空を見上げながら、
声色を変えて言った。
色々な感情が含まれた言葉。
翔吾さんは陸がよく慕っていた友人の1人だった。
面倒見も良くて、
陸と同じように私の事もいつも気にかけてくれた。
陸がいなくなってから、
翔吾さんは私の事を度々心配してくれていたけれど、
私は人と関わるのをやめてしまったから、
いつの間にか連絡も途絶えさせてしまっていた
どこから聞いたのか、
その言葉に驚いて翔吾さんの方を見る。
ど小さく呟いて下を向いた。
大きく吸った息が、白く曇った。
翔吾さんはそんなわけないよな、
と笑いながら私を見た。
それだけ言った私に驚いて、
翔吾さんは飛び跳ねるように、
「はっ!?」
と言って自分の体を私の方に向けた。
うーん、そっか...と何か考えを巡らせて彼はまた空を見た。
翔吾さんは全てお見通しかのように、
落ち着いた声でそういった。
その通りで何も言えずに、
私は、黙ったままだった。
翔吾さんは軽くじゃなく、
しっかりと落ち着いたトーンで言った。
翔吾さんははぁー、と呆れた顔で大きなため息をついた。
陸の無邪気な笑顔を思い出して、
心が温まって行く気がした。
いつまで経っても、
彼は私の中から消えることはない。
私の中にいる彼はすごく、
温かかったんだから。
思いもよらない出来事に、
私はただただ驚いた。
陸が私に宛てた手紙。
最後の手紙は、2文だけだったのに。
それだけだと思ってたのに...
翔吾さんはそう言うと、
「送って行くから乗って」
と私に言ってくれたけど、
なんだか私はまだここに居たくて、
それを見た翔吾さんは早く帰りなよ、
と優しく言って帰っていった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。