怖かったのは、
もうすでに彼の方を向いていた自分の気持ちを、
自分自身で認めてしまうことだった。
そう小さく呟いて、
私がここにいることが、
彼の中にいることが信じられないみたいに彼は私の体を強く強く抱きしめた。
言いたいことで頭の中は溢れていて、
伝えたい事をまとめたはずなのに、
全部綺麗に言うことはできなくて。
ゆっくり慎から離れると、
初めて慎と出会った時のように慎は涙でいっぱいの目でわたしを見ていた。
何よりも輝く瞳でわたしを見ていた。
彼の泣き顔が可愛くて、
愛おしくて、
大切で、
わたしはいつの間にか微笑んでいた。
冷たくなった耳が頬に触れて、
また笑みがこぼれる。
私が言うとまた慎は
と言いながら泣いていた。
わがままだと思った。
でも慎なら全部包み込んでくれると思った。
慎は私も、
私の大切な人も一緒に大切にしてくれる人だと思った。
慎はそう言って私の瞳からこぼれた涙を指で優しく拭うと、
壊れ物を扱うかのようにそっと私にキスをした。
慎は自分に言い聞かせるように、
私に約束するようにそう言った。
そして大きく深呼吸すると、とびっきりの笑顔になってまた私を抱きしめた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!