第9話

lost.9
63
2018/04/09 09:53
侑亜
記憶がないんだから、これから颯太が私を好きになる可能性だってある……!
私の方が若菜ちゃんより颯太のこと好き!若菜ちゃんモテるでしょ、颯太一人くらい私にちょうだいよ……!
若菜
……侑ちゃん
侑亜
っそんな目で見ないで……!同情なんていらないから!!
どうせ、若菜ちゃんは颯太に好かれてるから?私が可哀想に思えるんだろうけど!!

私だって本気で颯太が好きなの……!!
侑亜
そうだよ、可哀想って思うならいいでしょ?くれても。だって私の気持ち分かるんだもんね?
口が止まらない。黒い感情が身体の奥底からどんどん溢れてくる。
……本当は、若菜ちゃんを責めるのは間違いだって分かってるのに……。


誰か、私を止めて――――!
颯太
侑!若菜!
ドキッ、と心臓が鳴った。

声を聞くだけでドキドキしてしまうほど大好きな人が、校舎の陰から現れる。
侑亜
颯太……
颯太
悪い、途中から話聞いてた
侑亜
え……
待っ……待って、嘘、私思いっきり告白してたんだけど!?
聞いてるんなら言ってよ……!あぁでも颯太がいるって分かってたら絶対本音言えなかったか……。

……もしかして、颯太は私が全部吐き出すまで待っててくれた?
颯太
侑、俺……若菜が好きなんだ
颯太の口から改めて言われ、胸が締めつけられるように苦しくなる。
痛みを隠して、私は笑顔を見せた。
侑亜
……うん。知ってる
颯太
だけど、俺はお前と友達でいたい。侑。
若菜とも仲良くしてほしい
侑亜
……若菜ちゃんとも?
颯太
おう。好きな奴と一番の女友達が仲良くしてくれたら最高じゃねぇか?
一番の、女友達。

記憶を失った颯太には、今日まで言われたことがなかった。――“今”の颯太が初めて、『私』を認めてくれた気がした。

……あーあ。なんか、それを聞けて私、満足って思っちゃってるな。
侑亜
ねぇ若菜ちゃん。颯太のことさ、本当にダメ?
若菜
ごめんね。……譲れないの
若菜ちゃんがベンチから立って颯太の手を握った。
颯太がそれに自然な動きで指を絡めて、しっかりと互いを繋ぐ。

その行為に勇気をもらったように、若菜ちゃんが言葉を続けた。
若菜
颯太くんは、私の大好きな彼氏だから
少しの、静寂。

颯太が私に向かって口を開いた。
颯太
今だから言うけど、侑とこんな感じで手を繋いだ時、俺、「なんか違う」って思ったんだ。記憶はなくても体が覚えてたのかもな
……颯太って、わりとひどいよね。
見せつけるみたいに私の目の前で手なんか繋いじゃって、その上たたみかけるように「体が覚えてたのかも」って言うとかさ。

分かってたけど……勝ち目、ないなぁ。

プリ小説オーディオドラマ