ジリリリリとうるさい目覚まし時計を叩いて止める。
ベッドから起き上がり、ぼんやりと辺りを眺めてここが現実だと分かると、口から乾いた笑いが零れた。
……颯太が記憶喪失になったって聞いても、普通に寝れるところが私だよね。
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鞄を床に下ろして席に着く私を振り返り、友達の陽菜(ひな)が前の席から一番聞きたくないことを話してきた。
「知ってる」、そう短く答えて口を閉ざす。
最後だけ、ひそっと小声で付け加える陽菜。陽菜は私の秘密を知っているのだ。
中学生の頃から一番の男友達である颯太を、私がずっと好きだって秘密を。
……私はまだ、颯太と話してない。どこまで記憶を失くしたのか颯太のお母さんに聞けなかったけど、もしかしたら私のことは憶えてるかもしれない。
開かれた教室の扉から、骨折した左腕を首から吊った颯太が入ってきた。
骨折を除きいつもと変わらないその姿に安心し、私はいつものように駆け寄って声をかけた。
笑って、颯太の髪の寝ぐせを直そうと手を伸ばす。
――パシッ、と音がして、次に伸ばした手に僅かな痛みが走った。
警戒心を宿した目で睨むように見下ろされ、私は言葉を失った。
――颯太に手を振り払われた。誰って何?私のこと忘れてるの?私、颯太の一番仲良い女友達だよ?
……待って……じゃあ、まさか……“あの子”のことも?
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。