そう叫んで、扉を開いた。
その先に広がっていた光景は……一言で言うと悲惨だった。まるでゴミ屋敷とでもいえばいいのだろうか。ごみは散らかっているし、タンスの中はひっくり返っているし、物はそこら中で壊れている。それに、駿君の手は真っ赤で、腕からは血を流していた。多分、暴れている拍子に怪我でもしたんだと思う。
そう言いながら振り返った駿君は……笑顔だった。だけど、笑顔だけど、笑みはぎこちなくて。まるで泣いているみたいだった。だから、笑いながら泣いているんだ、ってわかった。……なんだか、ずっと昔のあたしを見ているみたいで放っておけなかった。素直に泣けなくて、助けてほしくてもそれさえ言わなくて。ずっと笑いながら、心配をかけまいと誰にも話さずに一人で泣いていた。そんな、昔のあたしみたいに。
あたしはそういって駿君の腕を掴む。真っ赤に腫れ上がった腕に、切り傷の絶えなかったような腕。それは酷く悲惨なもので、見ているだけでも痛々しい。
そう言う駿君の表情は、そう信じて疑わない、そんな雰囲気だった。だけど、違う。本当は透さんは駿君のことを心配している。
それに、きっと煌さんも、翔さんも、心配しているはずなんだ。
あたしはそう言いながら、ごみの中からまだ新品のティッシュボックスを発見した。そして、それを開けて駿君の腕に流れていく血を拭く。それに、涙も拭かないと。そう思い、あたしはまた別の新しいティッシュを取って、駿君の涙を拭こうとした。なのに、涙も、血も、止まらない。
そう聞こうとしたあたしの言葉は、最後まで続かなかった。なぜならば、駿君があたしの言葉を遮って、先に言葉を発したからだ。
そういって、駿君は机の引き出しからカッターナイフを取り出して、あたしの手に無理やり握らせた。……なんだか、嫌な予感がする。だから、手から離そうとするのに、駿君の力が強くて、離すことが出来ない。
そうして、駿君はつづけた。
そう言っていた駿君の頬には、大粒の涙がポロポロと伝っていた……。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。