「あさひ、分かってると思うけど、」
「私は、もう居ないの、死んでるのよ。」
光る涙は頬を滑り落ちていく。
「あさひがこんなにも私に会いたいって、」
「迎えに来てくれるから、」
「特別に会いに来たの。」
「ほんの少しの時間って約束でね。」
「私は “幽霊” だから、」
「約束の時間以上一緒に居ると帰る時に」
「あさひを道ずれにしちゃうのよ…。」
幽霊には幽霊の決まり事があって、
それを守らないと罰があるんだろうか。
その罰が、「会った人を死人にしてしまう」という
ことなのか?
おばあちゃんは泣きながら微笑んで、うなずいた。
「あさひから離れなかったらね」
「でもそんなことは絶対ダメだから、」
またうなずいた。
終わりが来ることは分かっていた。
でも気がつかないように言い聞かせていたんだ。
こぼれたのはその2文字。
「本当にごめんねぇ、」
「可愛い孫の成長を傍で見たかったよ」
「これから大人になっていくあさひを見ていたかったよ」
「うちへ帰ってきたら抱きしめて、ご飯を作って、何かあれば一緒に海へ行ったり、思いっきし褒めたり…したかったねぇ……」
「あさひの晴れ舞台に居たかったのにねぇ…」
視界が海へ飛び込んだように揺らいだ。
目から暖かいものがこぼれ落ちる。
潮が満ちて来たのか、足首は海に浸かっている。
サンダルは流されていないだろうか。
おばあちゃんの冷たい手が僕の涙を拭う。
「そうだよねぇ」
おばあちゃんの両親指がそれぞれの目の下を滑る。
「でもね、覚えててね、」
「あさひに見えなくても私にはちゃんと見えてる。」
「ちゃんとあさひを見守ってる。」
「あさひにはおばあちゃんがついてるのよ。」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。