若武「上杉、普通の人間じゃないって言ったら、誰なんだよ。プロレスラーとか?」
小塚「きっとタイガー・マスクだ!」
上杉「やめろよ」
上杉「これだけの手がかりで犯人を見つけるのは、とても無理だ。あきらめて、盗難届けでも出すんだな。保険がかけてあるはずだから、それで新しいのが買える」
若武「ダメだ」
若武くんは言った
若武「保険は親が管理している。秀明には乗ってっちゃいけないって言われてるんだ、それを無視したんだから、今さら盗られたなんて、言い出せねーよ。メンツってものがある」
きっぱりと言い切ってからうめくように付け加えた
若武「それに、このことがバレたら、小遣いが無期限ストップだ。いくら新しいチャリが来ても、小遣いが無いんじゃ動きがとれん」
黒木くんは
黒木「チャリか、小遣いか、それが問題だ」
小塚「若武、僕のDVD返せよ。先月貸しただろ、アニメ・ハムレット」
おぉ、良く借りんなぁ
若武「わかった。おまえから借りてるもんは全部返す。返すから、頼むから、お願いだから話の途中に口を挟むな!」
小塚くんを黙らせアタシたちを見回した
若武「とにかく、俺はやるぞ!俺のマウンテン・バイクを盗んだ犯人を必ず捕まえて、取り戻す!」
上杉くんは言った
上杉「じゃ、かってにやれよ。俺は降りる」
上杉「今週の三谷大塚テストは、どうしても上位をキープしたいんだ。総合だから次の正会資格に一番影響する。勉強時間が必要だ。お前もそうしろよ。メンツより成績だ。小遣いは諦めろ。じゃあな」
上杉くんはアタシたちを残して行こうとしていた
『悪いけど、アタシも抜ける』
皆が驚いたようにアタシを見た
今回の長期任務は油断があまり出来ない
任務に専念したいからこれ以上は出来ない
アタシもその場を去ろうとした
彩side
上杉くんと雨夜さんが私たちを残して行ってしまおうとしている
彩「止めないの?」
黒木くんは
黒木「上杉のことは上杉のじゆうだからな。もちろん雨夜も」
私は少し驚いた
だって、女の子同士のお友だちだったら絶対にそんなことない
相手が困っているときに、自分の勉強のことなんて言い出さないし、言い出せない
もし言ったら、もう友達ではいられないってお互いにわかってるもの
一緒に行動すること、同じことをすること、それが友だちってものだと、殆どの女の子は思ってる
相手が自分と同じことをし、同じことを思ってくれること、それが友達の印だって
それをしないと、自分が相手を裏切ったみたいに思えてきて、自分が嫌になる
でも黒木くんに言われて、私は、その時感じたのだった
私が今まで考えてきたような友情って、自由がないのかもしれないって
お互いが自由で、好きなことをしていて、それでも友達でいられるって、すごい
けれど、そういうときは、どこで友情を確かめるのだろう
何が手がかりになって、お互いが友達って思えるのかな
それが知りたいと思った
そうすれば、そんな友情を結ぶことができるかもしれない
それに雨夜さんのような強い子になれるのかもしれない
若武「上杉」
若武「おまえ、今週のテストに自信ないんだな」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!