第5話

第3章「燃える家、広がる血溜まり」
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2021/02/27 05:38
カラカラカラ。





もうとうに日は落ち、辺りは真っ暗になってしまった。山の中はとても静かでリヤカーを引く音だけが響いている。







カラカラカラ、カラカラカラ。





















一体いつからだっただろうか。カラカラという音がパチパチという音に変わったのは。














俺の家は山の麓にあって、山の途中、高台のようになっているところから家を見下ろすことができる。その辺まで山を降りてきて、ふと家のある方角を見た時だった。



英田灯理(あいだとうり)
ッ!?















家が、燃えていた。


















流(りゅう)
一体、どういうことだよ…。
光(ひかり)
ねぇ、お兄ちゃん、流兄、お母さんは!?お父さんは!?
英田灯理(あいだとうり)
分からない。俺が確認してくるから光たちはここで待ってろ。いいか、絶対にここから動いちゃダメだぞ。流、こいつらを頼んだ。
流(りゅう)
ああ、兄さんもやばそうなら早く戻ってきてくれよ。
英田灯理(あいだとうり)
分かってる。




下の2人はよく事情が分かっていないようだった。だがそれでいい。こんなことをまだ幼い2人には残酷すぎるから。



英田灯理(あいだとうり)
父さん!母さん!無事だったら返事をしてくれ!どこにいるんだ!




燃えさかる炎の音にかき消されて上手く声が通らない。煙でよく見えない、息もしづらい。そんな中で俺は一生懸命父さんと母さんを呼び続けた。そのとき、



灯理の母
とう、……り…。
英田灯理(あいだとうり)
母さん!!




崩れかけている家の中から這い出て来たのは母さんだった。火傷だけじゃなく、何か鋭利なもので切られたようなあとがある。あまりの出血の多さに「これは、助からない」と思ってしまった。



英田灯理(あいだとうり)
母さん、何があったんだ!教えてくれ!父さんは?
灯理の母
お父さんは…、分からないわ…。灯理は、チビたちを連れて、清美きよみおばさんのところへ行きなさい。ここは危険よ。あなたたちだけでも生き残ってちょうだい。ここには_________がいる……。



最後はよく聞き取れなかった。母さんはこの言葉を最期に息絶えた。



英田灯理(あいだとうり)
母さん…!!清美おばさんのところに行かなくちゃならない。



清美おばさんというのは、この村の端、隣村の近くに住んでいる母さんの妹、つまり俺たちの叔母にあたる人のことだ。あの人なら俺たちを快く受けて入れてくれるはずだ。



???
あらぁ、今日はごちそうねぇ。




後ろの燃えている家の方から見知らぬ女の声が聞こえた。反射的に振り返る。そこには若い女が人間の腕を持って立っていた。




これ、あなたのお父さんとお母さんかしらぁ?ふふふ、なかなか美味しかったわよぉ。そんなに睨まないで。すぐにあなたも同じ場所に連れて行ってあげるわぁ!




語尾を伸ばした甘ったるい声で女は言う。




英田灯理(あいだとうり)
ふざけるな!!お前は_______________



何者だ、そう言おうとして別の声に遮られる。



風太(ふうた)
兄ちゃん、父ちゃんと母ちゃんは?どうしてお家が燃えているの?
英田灯理(あいだとうり)
風太!!なんでここまで来てるんだ!!動いたらダメだって言っただろう!
流(りゅう)
兄さん、俺たちにもできることはやらせてくれ。兄弟だろ?俺たちは何をすればいい?



夏は短夜みじかよだと言うのにどうしてこんなにも時間が経つのが遅い。これは短夜の間の夢なのか?夢ならば、どうか…、早く覚めてくれ。



英田灯理(あいだとうり)
清美おばさんのところまで走れ!
光(ひかり)
お兄ちゃんは!?一緒に行くんじゃないの?
英田灯理(あいだとうり)
俺はあとから行く。
すみれ
とー兄と一緒じゃないとやだ!!
英田灯理(あいだとうり)
走れ!!振り返らずに、俺を気にせずに、とにかく村の端まで走れ!!もう…、これ以上、俺の家族を失いたくないんだ…!




お願いだ。お前たちだけでも助かってくれ。最後は涙の交じった嘆願だった。せめてこいつらが逃げる時間だけでも稼げたらそれでいい。その後で俺がどうなろうとも。



流(りゅう)
兄さん…。すまない!!



弟妹たちが走り去っていく。これでようやく…。



英田灯理(あいだとうり)
なっ…!?




俺の目の前にいた女はもうそこにはいなかった。ついさっきまでそこに立っていたのに。



私が獲物をみすみす逃がすとでもお思いかしらぁ?ねぇ?



女がつぅと流のあごを撫でる。この場にいる誰もが動けない。動けば、殺される_______。



お兄さんとのおしゃべりがすぎるんじゃないかしらぁ?
流(りゅう)
は、なせっ…!!
光(ひかり)
流兄!!
光が叫ぶ。

風太(ふうた)
お前、流兄から離れろ!
風太が叫ぶ。

すみれ
そんなことしたらとー兄が許さないからね!
すみれが叫ぶ。


目の前に最悪の事態が訪れようとしていた。
家族を全員失う…。


英田灯理(あいだとうり)
やめろーーーーっ!!!!!!



近くの畑に落ちていたくわを拾って、女めがけて走り出す。たった今父さんと母さんを失ったばかりなのに、弟妹たちを傷つけられてたまるものか。しかし_______



弟くんや妹ちゃんたちを守るのにはちょっと遅いんじゃないからねぇ?お兄さん?




一歩踏み出す。また一歩力強く地面を蹴る。だが、三歩目を踏み出すことは出来なかった。



英田灯理(あいだとうり)
あっ…あ、あ……。



女の隣には血溜まりができていた。弟妹たちの姿などどこにも見えない。逃げたのか?いや、こんな短い間じゃ無理だ。じゃあ…。



今日はおなかいっぱいになりそうねぇ。ちょっとびっくりしちゃったけど。だって家を燃やすだなんて思わないじゃないのぉ。
英田灯理(あいだとうり)
あああああああああああああっっっ!!
うふふ、つらいのねぇ、かわいそうに。でもそれももう楽になるわよぉ。あなたの家族のところに連れて行ってあげるものねぇ。




うるさい。
黙れ。
許さない。

よくも、俺の家族を。




殺してやる、



殺してやる_______________





英田灯理(あいだとうり)
殺してやる!!!!

|・ω・)ノ[終]|・ω・)ノ[終]|・ω・)ノ[終]|・ω・)ノ[終]|・ω・)ノ[終]

灯理くんの家族全員がこの日、この謎の女によって殺されてしまいました。
灯理くん13歳の夏の夜。
流くんは11歳でした。
光ちゃんは8歳でした。
風太くんは6歳でした。
すみれちゃんは3歳でした。

流くんたちが灯理くんのところにやってきたのは下の兄弟達で話し合った結果。全員「お兄ちゃんを助ける」と言ったのです。だから、降りてきた。兄弟だから。自分たちは兄弟なのだから。


家が燃えていたのは、お母さんが火を放ったから。お母さんと灯理くんが最期の会話をしていた時、お父さんは家の中で亡くなっていました。お父さんが死んだのを見てお母さんは家に火を放つ決意を固めました。子供たちをここに引き付けないように。ここに帰ってこないように。子供たちを守るために。
鬼に片腕をもぎ取られていても子供たちに逃げろと言うために、最後の力を振り絞って家から出てきたお母さん。すごい人です。






ちなみに、英田家の兄弟の中で1番好きなのは、次男の流くんです。喋り方が好き。‪w
皆さんはどうです??

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