第23話

第21章「もう一度兄さんと」
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2021/04/13 15:09
その後、俺と義勇さんは山を登っていた。修行中だという義勇さんの弟弟子に会いに行くためだ。


英田灯理(あいだとうり)
その炭治郎くんっていう子、どんな子なんですか?
冨岡義勇
お前みたいな頑固者だ。
英田灯理(あいだとうり)
えっ、俺って頑固ですか!?
冨岡義勇
人の話を全然聞かないところとかな。
英田灯理(あいだとうり)
うっ…
冨岡義勇
自分の意志を絶対に曲げないところとかな。
英田灯理(あいだとうり)
うぐっ…。心当たりがありすぎる…。
冨岡義勇
炭治郎はお前とよく似た境遇のやつだ。家族思いの優しいやつだが、その家族を鬼に殺され、妹は鬼になった。話せばあいつはきっと灯理とも仲良くなれる。



話をしてみたいと思った。彼の心の傷はどれくらいのものなのだろう。俺が話を聞いてあげることで彼の心はどれほど軽くなるだろう。喋ってみたい理由はそれだけではなかった。家族を殺され、妹を鬼にされた彼の気持ちを知りたかった。










炭治郎という少年は大きな岩の前でぶんぶんと刀を振っていた。剣術の腕はまだまだだった。せっかく呼吸で加速された腕を振る力が上手く刀に乗っていない。体を動かす速度が遅い。まるで先生の元で修行していた頃の自分を見ているようだった。



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河田吉三郎(かわだきちさぶろう)
全然なってないで、灯理!腰をもっと落とせ!
英田灯理(あいだとうり)
はい!
河田吉三郎(かわだきちさぶろう)
そら、次は剣先がブレた。ダメや、もう一回!!
英田灯理(あいだとうり)
はい!!

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厳しかったな、先生。過去の自分を思い出し、少年に親近感を覚えた。彼を少し驚かせてみようと、自分の中で一番いい笑顔を浮かべて、胡蝶さんのように蝶が舞うが如き足取りでふわりふわりと近づき、声をかけた。


英田灯理(あいだとうり)
やぁ、君が炭治郎くん?
竈門炭治郎
へぁっ!?え、誰だ!?
冨岡義勇
炭治郎、息災か。
竈門炭治郎
義勇さん!あの…、こちらの方は?
冨岡義勇
俺の継子だ。詳しいことは先生に聞け。
英田灯理(あいだとうり)
どうも、俺は英田灯理。俺とも仲良くしてくれると嬉しいな。



俺が家族を失って鬼殺隊に入ることになったのもこのくらいの年の時だった。どうしてこの世はその背丈に見合わない程の大きな悲しみを小さな少年に背負わせるのだろう。本当、世界は不条理なことだら______



竈門炭治郎
あの、こんなこと言っていいのか分からないんですけど、義勇さんと灯理さんって、その…、お付き合いとかされて…
英田灯理(あいだとうり)
えっ…?
冨岡義勇
はぁ…、炭治郎…。
竈門炭治郎
ごめんなさい!でも、お二人からとても幸せだっていう匂いがしたので…
英田灯理(あいだとうり)
匂い?
竈門炭治郎
俺、鼻が利くんです。人の感情が匂いとして分かるんです。
英田灯理(あいだとうり)
へぇ、すごい能力だな、それ。上手いこと使えば鬼殺にも役に立つかもしれない。



ここで一つ、とある考えが頭に浮かんだ。炭治郎くんの動きを見て、昔の自分を思い出し、少し手助けしたくなったのだ。


英田灯理(あいだとうり)
義勇さん、俺、炭治郎くんの面倒、もうちょっと見たいんですけど、いいですか?
冨岡義勇
ああ。俺は先生の家に戻っておく。




義勇さんの背中を見送ってから俺は炭治郎くんと向かい合った。


英田灯理(あいだとうり)
…。



炭治郎くんを見ていると、流を思い出す。性格は似てないけど、どこか重ねて見てしまう


竈門炭治郎
あの、灯理さん…
英田灯理(あいだとうり)
炭治郎くん、一ついいかな?
竈門炭治郎
はい、なんでしょう?
英田灯理(あいだとうり)
一回さ、“兄さん”って呼んでみてくれない?俺のこと。
竈門炭治郎
えっ、でも俺長男なんです!6人兄弟の長男で…
英田灯理(あいだとうり)
俺もだよ。長男だった。下には四人弟と妹がいてさ。その、すぐ下の弟が生きてたらちょうど炭治郎くんくらいの年なんだ。



炭治郎くんも長男なら、これだけの説明で全てわかってくれたはずだ。もう一度、自分を“兄”として扱ってくれる人が現れたなら、どれだけ救われるだろうか。


竈門炭治郎
に…、兄さん…。
英田灯理(あいだとうり)
あはは、照れちゃった。ありがとう、俺のわがまま聞いてくれて。



心がほんの少し軽くなった。久しぶりに聞いたその響きが俺をゆっくり包み込む。


英田灯理(あいだとうり)
さっきの炭治郎くんの質問、答えてあげるよ。
竈門炭治郎
さっきの…?
英田灯理(あいだとうり)
炭治郎くんの言った通り、俺と義勇さんは付き合ってるよ。心の底から好きなんだ。たとえ炭治郎くんだったとしても義勇さんの横は譲らないからな?



つい流がいた頃に喋っていたような感覚になってイタズラな笑みを浮かべてしまった。何年か昔に戻って子供の頃の気持ちを取り戻したように思えた。


竈門炭治郎
灯理さんの笑顔にかなう人がいるんですか。



真夏の日差しはこの山の木でほとんど遮られていた。そのおかげか少し涼しく感じられる。木々の間を通り抜ける風が俺と炭治郎くんの髪を掻き乱していく。








それから数時間ほど炭治郎くんと剣を交えた。同じ水の呼吸を使う者として、先輩として、いろいろ教えておきたいこともあったし。そのおかげか、炭治郎くんの剣術も少し良くなった気がする。


英田灯理(あいだとうり)
うんうん、いい感じだね。
“水の可能性は無限大”。俺のやる気を引き出す時の合言葉みたいなものだ。挫けそうな時にこの言葉を思い出すと俺はまだまだ頑張れるって思えるんだよ。水に形はない。だからこそどんな形にでもなれる。水になりきるんだ、炭治郎くん。君ならもっと強くなれる。この言葉覚えとくといいよ。いつか必ず役に立つからさ。
竈門炭治郎
はい!ありがとうございました、灯理さん。



気がつけば日はとうに西に傾いていた。随分と義勇さんを待たせてしまった。俺は急いで山を駆け下りた。


英田灯理(あいだとうり)
うわっ、何だこれ!?



障害物を全力で避けながら。

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気づいていた人もいたかもしれませんが、炭治郎と灯理くんってよく似てるのです。境遇も性格も。ただ一つ違うのは考え方。炭治郎は「自分も、仲間もみんなで戦って、生きて、先に進んでいく」タイプですが、灯理くんは「仲間を生かすためには自分の命を捨てることも惜しくない」タイプです。そういえば天津島の任務の時、灯理くんは「俺が死ぬ時は鬼がいなくなった時か、仲間を守る時だけだ」と言ってましたね。彼の考え方が顕著に現れている言葉だと思います。家族や親友が死んだのは自分のせいだという考えが染み付いている彼には自分の命など重いものでもないのかもしれません。
その考え方が彼を不幸へと突き落としていく。


炭治郎、お前、灯理くんのこの考え方直してくんね??ってめっちゃ思いますけどね(深夜テンション)


次回、名前だけ出ていた“あの人”の元へ灯理くんが向かいます!灯理くんに残された唯一の身内。乞うご期待!!

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