その後、俺と義勇さんは山を登っていた。修行中だという義勇さんの弟弟子に会いに行くためだ。
話をしてみたいと思った。彼の心の傷はどれくらいのものなのだろう。俺が話を聞いてあげることで彼の心はどれほど軽くなるだろう。喋ってみたい理由はそれだけではなかった。家族を殺され、妹を鬼にされた彼の気持ちを知りたかった。
炭治郎という少年は大きな岩の前でぶんぶんと刀を振っていた。剣術の腕はまだまだだった。せっかく呼吸で加速された腕を振る力が上手く刀に乗っていない。体を動かす速度が遅い。まるで先生の元で修行していた頃の自分を見ているようだった。
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厳しかったな、先生。過去の自分を思い出し、少年に親近感を覚えた。彼を少し驚かせてみようと、自分の中で一番いい笑顔を浮かべて、胡蝶さんのように蝶が舞うが如き足取りでふわりふわりと近づき、声をかけた。
俺が家族を失って鬼殺隊に入ることになったのもこのくらいの年の時だった。どうしてこの世はその背丈に見合わない程の大きな悲しみを小さな少年に背負わせるのだろう。本当、世界は不条理なことだら______
ここで一つ、とある考えが頭に浮かんだ。炭治郎くんの動きを見て、昔の自分を思い出し、少し手助けしたくなったのだ。
義勇さんの背中を見送ってから俺は炭治郎くんと向かい合った。
炭治郎くんを見ていると、流を思い出す。性格は似てないけど、どこか重ねて見てしまう
炭治郎くんも長男なら、これだけの説明で全てわかってくれたはずだ。もう一度、自分を“兄”として扱ってくれる人が現れたなら、どれだけ救われるだろうか。
心がほんの少し軽くなった。久しぶりに聞いたその響きが俺をゆっくり包み込む。
つい流がいた頃に喋っていたような感覚になってイタズラな笑みを浮かべてしまった。何年か昔に戻って子供の頃の気持ちを取り戻したように思えた。
真夏の日差しはこの山の木でほとんど遮られていた。そのおかげか少し涼しく感じられる。木々の間を通り抜ける風が俺と炭治郎くんの髪を掻き乱していく。
それから数時間ほど炭治郎くんと剣を交えた。同じ水の呼吸を使う者として、先輩として、いろいろ教えておきたいこともあったし。そのおかげか、炭治郎くんの剣術も少し良くなった気がする。
気がつけば日はとうに西に傾いていた。随分と義勇さんを待たせてしまった。俺は急いで山を駆け下りた。
障害物を全力で避けながら。
|・ω・)ノ[終]|・ω・)ノ[終]|・ω・)ノ[終]|・ω・)ノ[終]|・ω・)ノ[終]
気づいていた人もいたかもしれませんが、炭治郎と灯理くんってよく似てるのです。境遇も性格も。ただ一つ違うのは考え方。炭治郎は「自分も、仲間もみんなで戦って、生きて、先に進んでいく」タイプですが、灯理くんは「仲間を生かすためには自分の命を捨てることも惜しくない」タイプです。そういえば天津島の任務の時、灯理くんは「俺が死ぬ時は鬼がいなくなった時か、仲間を守る時だけだ」と言ってましたね。彼の考え方が顕著に現れている言葉だと思います。家族や親友が死んだのは自分のせいだという考えが染み付いている彼には自分の命など重いものでもないのかもしれません。
その考え方が彼を不幸へと突き落としていく。
炭治郎、お前、灯理くんのこの考え方直してくんね??ってめっちゃ思いますけどね(深夜テンション)
次回、名前だけ出ていた“あの人”の元へ灯理くんが向かいます!灯理くんに残された唯一の身内。乞うご期待!!
⭐&♥️&💬 welcome!
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。