赤い瞳の悪魔──スイは、ぼんやりとそんな事を考えながら歩く。
考え事をしながら歩いていたらドンと誰かにぶつかってしまったので、スイは顔を上げ謝った。
しかしぶつかった相手はいわゆる不良という部類に入るような悪魔だったらしく、それだけでは済ませてくれなかった。
スイがどうしようかと考え込んでいたら、それを無視されていると受け取ったらしく兄貴と呼ばれていた悪魔が殴りかかってくる。
そして驚いたスイは、反射的に魔術を発動させてしまった。
スイの魔力を含んだ声を聞き、殴りかかってきた悪魔はピタッと動きを止める。
そして、その場にへたり込んだ。
ガタガタと可哀想なくらい震える彼を見て、取り巻きの者達は大きく目を見開き、そして…。
大きく腕を振り上げスイに攻撃しようとする。
スイは襲ってくるであろう痛みに備えて目をギュッとつむった。
でも、その痛みはいつまでたってもこなかった。
恐る恐る目を開けてみたら、スイを庇うように目の前に悪魔が立っているではないか。
一体誰なのか。スイがそれを問う前に、その悪魔は口を開く。
リーダーらしき悪魔を抱えて逃げようとする彼らを、スイは呼び止める。
皆が不思議そうに彼を見る中、スイはリーダーの悪魔の前で、パチンと指を鳴らしてみせた。
スイがそう言うと、「おう…?」と戸惑いながらも不良達は去っていった。
気まずそうに視線を下げるスイに、スイを助けた青年──イルマは笑顔で返す。
イルマはそう言うと、手を軽く振りながらスイの元を去っていった。
手を振られたら振り返すのが礼儀だろうか、とスイはイルマの姿が見えなくなるまで手を振り、そしてさぁ帰ろうかと踵を返した所で、足元に何か落ちているのに気が付いた。
イルマはこの学校では有名人なので、他の悪魔との交流が少ないスイでも名前を知っている。
スイはそう決めるとハンカチを丁寧に畳み鞄にしまい、今度こそ家路に着いた。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。