そして次の日の、朝。
スイはハンカチを返すため問題児クラスの生徒達がいる王の教室まで来ていた。
スイがそう思いながら入り口の辺りをうろうろしていたら、後ろから声をかけられた。
リードはスイの言葉を聞いてデレデレと鼻の下を伸ばす。
そんなリードの横で、スイは「後…」と付け加える。
リードの中で一二を争う黒歴史に言及されて、リードは慌ててスイの口を塞ぐ。
リードがあまりにも必死なのでスイはこくこくと頷く。
それを見て、リードはスイの口から手を離した。
スイはそう言いながら鞄の中から昨日拾ったハンカチを出す。
リードの申し出にスイは目を見開く。
かつて魔王がいた教室に僕なんかが入ってもいいのか、と戸惑うけれどリードは「いいよいいよ」と笑う。
スイが自然と発した言葉に、リードはむず痒いような気持ちになる。
末っ子であるリードは兄などと呼ばれた事はなく、そういう言葉には慣れていなかった。
リードに食い気味でそう言われ、少し引きながらもスイは頷き、リードの後について王の教室に入った。
リードは自分が作った訳でもないのになぜか得意げになりながら、教室へ向かった。
そこでは、問題児クラスの生徒の内数人がわいわいと話していた。
視線がこちらに集まってきて、スイは少し居心地が悪そうに視線を逸らす。
リードはそんなスイを励ますように両肩に手を置くと、皆に説明をし始めた。
出だしから躓いているリードに、皆がずるっと身体を滑らせた。
スイはそれを見て頬を緩めながら名乗る。
少し緊張しながらスイがそう問うけれど、皆は笑顔で受け入れてくれる。
にっこり笑顔でオニーサンと呼ばれ、ジャズは胸の辺りを手で掴む。
兄でも何でもないジャズがそう考えている横で、今度はエリザベッタが自己紹介をする。
エリザベッタがスイに好感を抱いていそうな様子を見て、リードはバッと2人の間に割って入る。
そしてリードの慌て方を見て、スイは何となく2人の関係を察する。
スイは背伸びしてリードの耳元に口を寄せると、小さな声でこう言った。
リードはそれを聞き大きく目を見開く。
その反応をスイは楽しそうに眺めながら、まだ名前を聞いていない水色の髪の悪魔に目を向ける。
口数の少ないケロリを見て、スイは人見知り気味の悪魔か、とぐいぐい行き過ぎた事を少し後悔する。
しかし、実際はそうではなかった。
リードはその事を経験則からかうっすらと察したが、何も言わなかった。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。